士業コラム
社員が逮捕されたと連絡が来たら?会社の初動と勤務・処分の判断

社員が逮捕されたと連絡が来たら?会社の初動と勤務・処分の判断

社員が逮捕されたという連絡を受けたとき、経営者は「出勤できない間の給与はどうするのか」「すぐに解雇できるのか」と判断に迷うことがあります。取引先や同僚への影響も心配ですが、逮捕の事実だけで犯罪が確定したわけではありません。会社としては、事実確認、業務への影響の把握、勤怠の取扱い、処分の検討を分けて進めることが重要です。ここでは中小企業の経営者が確認したい順序を整理します。

最初に確認するのは逮捕の内容より勤務への影響

連絡元と確認できた事実を記録する

本人、家族、弁護士などから連絡が入ったら、誰から、いつ、どのような説明があったかを記録します。逮捕の理由や今後の見通しは、伝聞だけで確定的に扱わないようにします。本人と直接連絡できない場合もあります。家族に詳細な説明を強要せず、連絡窓口と次回の連絡予定を確認することから始めましょう。

社内で直ちに必要なのは、当面の出勤が可能か、予定していた仕事を誰が引き継ぐか、会社の設備や情報へのアクセスをどう管理するかという点です。事件に関する情報を必要以上に集めるより、事業継続に必要な事項を優先します。

社内共有は必要最小限にする

管理職や人事担当者など、業務継続に不可欠な最小限の範囲でのみ欠勤見込みと引継ぎを共有します。逮捕容疑や本人の私生活に関する情報は、社内であっても安易に共有・公表してはなりません。事実無根であった場合や不起訴となった場合、名誉毀損やプライバシー侵害として会社が損害賠償責任を問われるリスクがあります。取引先に対しても担当変更の事実のみを伝え、推測や未確認情報は伝えない対応を徹底します。

出勤できない期間の勤怠と給与を整理する

欠勤・休暇・休職を混同しない

逮捕や勾留により出勤できない場合、まず就業規則と雇用契約を確認します。本人から年次有給休暇の請求があるか、欠勤として扱うか、会社に適用できる休職制度があるかによって整理が異なります。休職制度は法律で一律に定められたものではなく、会社の規程に基づくため、名称だけで自動的に適用しないようにします。

本人が連絡できないことだけを理由に、直ちに無断欠勤と決めつけるのも避けたい対応です。連絡が難しい事情を把握したうえで、規程に沿って記録を残します。年次有給休暇についても会社が本人の意思を確認せず一方的に充当することは適切ではありません。

給与は勤務実績と規程に基づき判断する

実際に労働していない時間については、原則として賃金が発生しないという考え方が基本です。ただし、月給制の欠勤控除の方法、有給の特別休暇の有無、休職中の給与などは賃金規程を確認する必要があります。会社の都合による休業と、本人が身柄拘束によって勤務できない場合は同じではありません。

給与計算では、欠勤日数だけでなく、既に働いた日数、固定手当の取扱い、社会保険料なども整理します。逮捕されたことへのペナルティとして独自の「罰金」や規定外の控除を行うことは、労働基準法違反(賠償予定の禁止や全額払いの原則違反)となります。必ず就業規則や賃金規程の定めに沿った正規の控除計算にとどめてください。

逮捕されたという理由だけで解雇できるのか

逮捕と有罪判決は別の段階

逮捕されたことと、犯罪行為が事実として認定されたことは異なります。報道があった場合でも、会社はその内容だけで懲戒解雇を決めるべきではありません。まず、本人の行為がどの程度確認できるか、会社の業務や信用にどのような具体的影響があるかを整理します。

労働契約法第15条は、懲戒に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を求めています。第16条も、解雇について同様の基準を定めています。就業規則に「犯罪行為」「会社の信用失墜」などの規定があっても、条文に当てはめるだけで処分が有効になるわけではありません。

私生活上の行為と業務上の行為を区別する

例えば、勤務時間外の私生活上の事件と、会社の業務中に顧客へ損害を与えた事件では、会社との関連性が異なります。職務の性質、被害の内容、取引先への影響、本人の担当業務、再発防止の可能性などを具体的に検討します。

なお、釈放された後や身柄拘束を伴わない在宅捜査の場合、事実関係が確認できるまで出勤を控えさせたいケースがあります。しかし、会社都合で自宅待機を命じる場合は、就業規則上の根拠や待機中の賃金(休業手当)の支払義務が生じる点に注意が必要です。本人が物理的に出勤できない「欠勤」と、会社命令による「自宅待機」は法的な扱いが異なるため、混同しないようにしましょう。

処分を検討する前に踏みたい手順

本人の説明を聞ける機会を設ける

本人との連絡が可能になったら、確認した事実を示し、本人の説明を聞く機会を設けます。本人が事実関係を争っている場合には、その点も記録します。刑事事件の捜査資料を会社が自由に取得できるわけではないため、確認できる範囲と未確認の範囲を分けておくことが必要です。

就業規則の懲戒事由、処分の種類、手続規定を確認し、過去の類似事案との均衡も考えます。重い処分ほど、判断に使った資料と検討過程を残しておくことが重要です。懲戒解雇を選ぶ場合は、解雇予告や解雇予告手当の取扱いについても別途確認が必要です。

想定例で考える会社の対応

例えば、営業社員が休日の私的なトラブルで逮捕され、数日間出勤できないと連絡があったとします。この段階では、担当顧客への連絡を別の社員に引き継ぎ、欠勤期間の勤怠処理を確認し、本人と連絡できる窓口を確保します。会社に損害が生じたか、職務との関連があるかは、その後に確認します。

このような場合に、最初の電話だけで解雇を通知するのは避けるべきです。一方、顧客情報の不正利用など業務に直結する具体的な疑いがある場合には、情報保全やアクセス権限の見直しを急ぐ必要があるでしょう。対応は事案によって異なります。

判断が難しいときは労務相談で整理する

逮捕の連絡を受けた会社は、事件そのものを調べる役割と、雇用管理を適切に進める役割を混同しないことが大切です。まずは連絡記録、勤務予定、就業規則、賃金規程、業務への影響を整理してください。処分を検討する場合には、確認できた事実と本人の説明を区別して資料をまとめます。

城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。欠勤の扱い、給与計算、懲戒規定の確認など複数の判断が絡むときは、結論を急ぐ前に社会保険労務士へ相談することが有用です。刑事事件そのものの対応が必要な場合は、弁護士への相談も検討してください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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