士業コラム
社員から在宅勤務を希望されたら?会社の判断と労務管理の注意点

社員から在宅勤務を希望されたら?会社の判断と労務管理の注意点

社員から「週に2日、自宅で仕事をしたい」と申し出があったとき、会社は必ず認めなければならないのでしょうか。通勤時間を減らしたい、育児や介護と両立したいなど、希望の背景はさまざまです。一方、経営者としては、業務に支障が出ないか、勤務時間を把握できるか、ほかの社員との公平性をどう考えるかが気になるところです。

在宅勤務は、認めるか断るかの二者択一だけで考えるものではありません。個別事情と既存の労働条件を確認し、実施できる範囲や条件を検討することが重要です。ここでは中小企業が希望を受けた際の判断と、導入前に整えるべき労務管理を説明します。

在宅勤務の希望を会社は必ず認める必要がある?

原則として希望だけで在宅勤務の権利が生じるわけではない

一般に、社員が希望したという理由だけで、会社に在宅勤務を認める一律の法的義務が生じるわけではありません。担当業務の内容、顧客対応や設備の必要性、情報管理、他の社員との連携などを踏まえ、実施可能か判断できます。

ただし、労働契約や就業規則で在宅勤務を認める条件を定めている場合、会社はその内容に沿って対応する必要があります。採用時に在宅勤務を前提とした説明や合意があった場合も、単に会社の都合だけで扱いを変えられるとは限りません。

育児・介護などの事情がある場合は別の制度も確認する

育児や介護を理由とする申し出では、在宅勤務の希望とは別に、育児・介護休業法上の制度や配慮が関係することがあります。対象者や事業主に求められる措置は、子の年齢、介護の状況、事業所の制度などによって異なります。

単に「社内ルールがないから認めない」と突っぱねると法的な不利益取扱いに該当する恐れもあるため、本人の現状の困りごとをヒアリングし、法定制度(短時間勤務や看護休暇など)や代替策とあわせて総合的に判断する必要があります。

そのため「在宅勤務は認めない」という結論を先に出すのではなく、本人が何に困っているのかを確認し、利用できる法定制度や代替策がないか整理することが大切です。

会社が最初に確認したい3つの事項

1.自宅で遂行できる業務か

資料作成やオンライン会議などは在宅勤務と相性がよい一方、来客対応、現物の管理、現場作業などは出社が必要な場合があります。ただし、職種名だけで一律に判断せず、担当業務を具体的に分けて検討します。

例えば、経理担当者が週1日の在宅勤務を希望した場合、請求書の電子処理や照合作業は自宅でできても、紙の原本確認や現金管理は出社日に行う必要があるかもしれません。業務の切り分けができれば、全面的な許可・不許可以外の選択肢も生まれます。

2.現在の労働条件と社内規程はどうなっているか

雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、在宅勤務規程を確認します。特に就業場所の定めや変更の範囲、勤務時間、申請・承認手続き、出社を求める条件は重要です。

2024年4月以降の労働契約締結・有期契約更新では、就業場所と業務の変更の範囲の明示が必要です。ただし、明示されている変更範囲がそのまま会社の無制限な変更権限を意味するわけではなく、個別の合意や契約内容も確認します。

3.本人の希望と業務上の条件をすり合わせられるか

希望する曜日、期間、理由、必要な機器、連絡可能な時間帯を本人に確認します。家庭の事情を必要以上に詳しく聞き出すのではなく、勤務条件を判断するために必要な範囲で把握しましょう。

会社側も、出社が必要な日、会議への参加方法、機密情報の扱いなどを具体的に伝えます。判断理由を説明できるようにしておくことは、ほかの社員との公平性を保つうえでも役立ちます。

在宅勤務を認める場合に決めておく労務管理

労働時間の記録と残業の扱い

在宅勤務でも、原則として労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されます。始業・終業の報告、勤怠システムの打刻、業務記録などを組み合わせ、実際の労働時間を適切に把握する仕組みが必要です。

「自宅なので勤務時間は把握できない」として、一律に所定労働時間だけ働いたものと扱うことはできません。事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定が困難であることなど、適用要件を満たす場合に限られます。

残業についても、事前承認の方法を決めることは有用ですが、承認がなかったという理由だけで実際の労働時間を無視できるわけではありません。業務量や連絡履歴なども確認し、長時間労働を防ぐ運用を整えます。

通信費・備品・情報管理・通勤費

パソコン、通信回線、電気代、事務用品などについて、会社と社員のどちらが負担するのかを明確にします。社員に費用を負担させる場合には、就業規則上の定めが必要となる事項もあるため、負担内容と規程の整合性を確認してください。

また、週2日の在宅勤務で頻出するのが「通勤手当」の扱いです。従来の定期代支給を続けるのか、出社実績に応じた実費精算に切り替えるのかを決め、実費精算にする場合は規程の変更や事前申請ルールの周知を進めます。

会社の資料を自宅に持ち帰る場合は、端末の利用条件、データ保存先、印刷の可否、第三者から画面を見られない環境なども検討します。セキュリティ対策は情報システム担当者等とも連携して決めます。

連絡方法と出社を求める場合の条件

連絡手段、定例報告、緊急時の対応、会議参加の方法をあらかじめ決めます。ただし、勤務時間外の即時返信まで当然に求める運用は避けるべきです。

また、繁忙期や顧客対応のため出社が必要になる場合、何日前に連絡するのか、どのような場合に在宅勤務を一時停止するのかも明確にしておくと、運用上の行き違いを減らせます。

希望を認めない場合・途中で変更する場合の注意点

不許可の理由は業務に即して説明する

在宅勤務が難しい場合には、「前例がないから」だけで終わらせず、対面業務の必要性や設備上の制約など、具体的な事情を説明します。同じような業務を担当する社員間で判断が異なる場合には、その理由を整理しておきましょう。

一方、育児・介護など法定制度に関係する申し出では、制度上の義務や不利益取扱いの禁止に抵触しないか、別途慎重な確認が必要です。

いったん認めた在宅勤務を取り消すとき

試行的に認めたのか、継続的な労働条件として合意したのかで対応は変わります。開始時に期間や見直し条件を明示しておくことが有用です。

継続的な在宅勤務が契約上の労働条件となっている場合、会社が一方的に出社勤務へ変更できるとは限りません。変更の必要性、本人への影響、契約・規程の内容を確認し、必要に応じて合意を得る進め方を検討します。

中小企業が実施前に進めたい対応手順

まず本人から希望する勤務日数や期間を聞き、担当業務を在宅で行えるものと出社が必要なものに分けます。次に、契約書・就業規則・関連制度を確認し、許可の可否と条件を検討します。

実施する場合には、勤務日、就業場所、労働時間の記録、残業申請、費用負担、情報管理、出社指示、終了・見直し条件を文書で共有します。最初から恒久制度にせず、例えば一定期間の試行とし、業務上の課題を振り返る方法も考えられます。

社員ごとに場当たり的な約束を重ねると、勤務条件が不明確になりがちです。複数人が利用する見込みなら、申請書式や在宅勤務規程を整備し、対象者の判断基準を統一することが望まれます。常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更する場合には、意見聴取や届出などの手続きも確認します。

判断に迷うときは労働条件と運用をまとめて確認する

在宅勤務の希望は、単に出社するかどうかの問題ではなく、労働契約、勤怠管理、費用負担、就業規則の整備に関わります。社員1人の個別対応で済むのか、会社全体の制度として整理するべきかを見極めることが重要です。

相談前には、現在の雇用契約書・労働条件通知書、就業規則、本人の希望内容、担当業務の一覧、想定する勤務方法を用意すると論点を整理しやすくなります。

城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。在宅勤務を認める条件や勤怠管理の方法、規程の整備に迷う場合は、実際の業務内容と現在の労働条件を踏まえて相談するとよいでしょう。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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