士業コラム
社員が会社の備品を壊したら?弁償の判断と会社の対応

社員が会社の備品を壊したら?弁償の判断と会社の対応

社員が作業中にパソコンを落とした、機械を誤操作して故障させた、会社の備品を破損した。このようなとき、経営者としては「修理代を本人に負担してもらえるのか」と考えることがあります。一方、事故の原因を確かめずに弁償を求めると、労使間のトラブルを招くおそれがあります。

社員のミスによって損害が発生しても、当然に全額を本人へ請求できるわけではありません。会社側の教育や管理体制、事故の経緯なども重要です。ここでは、備品の破損が起きた際の事実確認から、弁償の判断、社員への指導、再発防止まで、中小企業が押さえておきたい対応を整理します。

まずは破損の状況と損害を確認する

事故の経緯を本人と関係者に確認する

最初に行うべきことは、誰にいくら負担させるかを決めることではなく、事実関係の整理です。破損した日時、場所、作業内容、使用方法、事故前の設備の状態を確認します。本人の説明だけでなく、必要に応じて同席者の話や作業記録も照合しましょう。

例えば、操作手順を誤ったように見えても、説明書がなかった、機械に以前から不具合があった、十分な研修を受けていなかった、といった事情が隠れている場合があります。本人に最初から責任を認めさせようとすると、正確な状況を把握しにくくなります。

修理費と実際の損害を分けて整理する

修理見積書や購入履歴、保険契約を確認し、会社が実際に負担する損害を把握します。購入時の価格がそのまま損害額になるとは限りません。修理可能か、使用年数や現在の価値はどうか、保険で補填される部分はないかを確認する必要があります。

取引先への納期遅延など別の損害が生じた場合も、破損との因果関係や金額を個別に検討します。推測で損害を上乗せしないことが大切です。

社員に弁償を求められるかは一律に決まらない

ミスがあっただけでは全額負担にならない

仕事上のミスは、企業活動に伴って発生するリスクの一つです。厚生労働省が紹介する裁判例でも、社員に損害が生じた原因があるからといって、当然に賠償責任を負うものではないと整理されています。

判断では、故意か不注意か、不注意の程度、業務の難しさ、本人の経験、会社の指導や安全対策、保険の利用状況などを総合的に考えます。本人に責任が認められる場合でも、損害の公平な分担という観点から、請求できる範囲が制限されることがあります。

例えば、新人社員が十分な説明を受けないまま初めて使う機械を破損した場合と、繰り返し注意を受けていた社員が明確な安全手順を無視した場合では、検討すべき事情が異なります。ただし、後者であっても自動的に全額請求できるわけではありません。

あらかじめ弁償額を決める規定は違法

「備品を壊したら一律3万円」「ミス1回につき5,000円」といった定めは、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に違反し、法的に無効です。

あらかじめ金額を固定して定めておくことは法律上禁止されているため、就業規則や誓約書等に記載しても効力を持ちません。

実際に損害が発生した後に個別事情や過失割合、実損額を踏まえて請求の可否を検討することと、事故前から賠償額を固定しておくことは法的に全く別の問題です。

修理代を給与から差し引いてはいけない

賃金の全額払いの原則を確認する

会社が「修理代の一部を負担してほしい」と考えても、給与から一方的に差し引く(相殺する)ことは労働基準法第24条(全額払いの原則)違反となり、許されません。

社員本人が「給与から引いてください」と同意した場合であっても、判例上「社員の真の自由な意思に基づく合意」と認められるハードルは極めて高く、後から「強要された」と争われれば違法と判断されるリスクがあります。

そのため実務上は、給与は一度全額を通常どおり支払い、合意した弁償金については別途社員本人から口座振込や現金等で支払ってもらう手順を踏むことが鉄則です。

弁償の話し合いは記録を残す

請求を検討する場合は、事故の経緯、損害額の根拠、会社側の管理状況を整理したうえで本人に説明します。その場で支払いを約束させたり、強い言葉で責任を追及したりすることは避けます。

双方の認識が食い違うときは、早急な金銭回収よりも、争点を整理することを優先しましょう。賠償責任の有無や請求額について対立が深まる場合は、弁護士への相談も検討すべきです。

指導や懲戒は損害賠償と切り分ける

業務指導は原因に応じて行う

備品が壊れたことだけを理由に、直ちに懲戒処分を決めるのは適切ではありません。操作方法を知らなかったのであれば研修の充実が必要ですし、作業が過密だったのであれば人員配置や手順の見直しが必要かもしれません。

本人に改善を求める場合は、問題となった具体的な行動、守るべき手順、次回からの確認方法を明確に伝えます。面談日時や指導内容を記録しておくと、その後の対応にも役立ちます。

懲戒処分には規定と相当性の確認が必要

重大なルール違反が疑われる場合には、就業規則の懲戒事由に該当するか、事実に争いがないか、処分が行為の程度に見合うかを検討します。懲戒は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合には無効となり得ます。

また、損害賠償と懲戒処分は目的や判断基準が全く異なります。過失割合や損害額について争いがあるなかで、社員が弁償に応じないことだけを理由に懲戒処分を重くすることは、懲戒権の濫用(労働契約法第15条)として法的に無効となります。民事上の損害賠償と社内処分は完全に切り離して対応しなければなりません。

事故後の対応手順と再発防止策

初動から改善までの進め方

実務上は、①破損箇所の安全確保と業務への影響確認、②本人と関係者からの事情聴取、③修理見積・保険・管理記録の確認、④会社側の管理責任も含めた原因分析、⑤必要な指導と再発防止策の決定、という順番で整理すると進めやすくなります。

破損した物の写真、修理見積書、操作マニュアル、研修履歴、就業規則、事故報告書などをまとめておきましょう。報告書は責任追及だけの資料ではなく、同様の事故を防ぐための記録として扱うことが重要です。

想定例:事務所のパソコンを落としてしまった場合

例えば、社員が業務中にノートパソコンを落として画面を破損したとします。会社はまず、机や通路の配置、持ち運びの必要性、保護ケースの支給状況などを確認します。修理費の見積りと保険の適用も調べます。

単純な不注意に見えても、通路に荷物が置かれていたなど、職場環境に改善点があるかもしれません。この場合、本人への注意だけで終わらせず、持ち運びのルールや備品管理の方法も見直すことで、事故の再発を防ぎやすくなります。

判断に迷う場合は労務管理の観点から相談を

社員による備品の破損では、損害の回復だけに目を向けると、給与の不適切な控除や過度な指導など、別の問題を生むことがあります。会社としては、事故原因を確認し、本人と会社の責任を分けて考え、適切な指導と職場環境の改善につなげることが大切です。

特に、就業規則の懲戒規定を適用するか迷う場合、過去にも同じ事故が起きている場合、本人との話し合いが難航している場合は、早い段階で専門家に相談すると整理しやすくなります。

東京都豊島区の城田社会保険労務士事務所では、中小企業の労務管理や就業規則に関する相談を扱っています。事故報告書、就業規則、指導記録などを用意し、事実確認や再発防止を含む労務対応について相談することができます。損害賠償請求の法的紛争については、必要に応じて弁護士への相談も検討してください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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