士業コラム
退職証明書を求められたときの中小企業の対応と記載事項

退職証明書を求められたときの中小企業の対応と記載事項

「退職した社員から、転職先へ出す証明書を急いでほしいと言われた」「離職票は渡したのに、別の書類も必要なのだろうか」 退職者から連絡を受け、何を書いて、いつまでに渡すべきか迷うことがあります。

退職証明書は、本人から請求があった場合に、会社が遅滞なく交付する必要のある書類です。大切なのは、本人が求める項目を確かめ、会社の記録に基づいて作成することです。この記事では、中小企業が請求を受けてから交付するまでの確認事項を解説します。

退職証明書と離職票の違いを確認します

労働基準法第22条は、退職の場合に、労働者が一定の事項について証明書を請求したときは、使用者が遅滞なく交付しなければならないと定めています。自己都合退職であっても対象です。正社員に限らず、パートや有期契約の従業員からの請求にも対応が必要です。

離職票は、雇用保険の基本手当などの手続きに用いられる書類です。一方、退職証明書は、会社が使用期間や退職の事由などを証明するものです。離職票を渡していても、それだけで退職証明書の交付義務を果たしたことにはなりません。

また、健康保険の資格喪失証明書とも役割が異なります。「退職の書類がほしい」という連絡だけでは、本人が必要とするものが分からないこともあります。書類の名称や、証明してほしい内容を確認し、別の書類を作ってしまわないようにしましょう。

提出先の指定様式があれば、確認のために送ってもらうと実務を進めやすくなります。ただし、用途は本人に委ねられるものであり、提出先や使い道を説明しないことだけを理由に、法定の証明書の交付を断る扱いは避けてください。

最初に本人が請求する項目を確かめます

法律が定める証明事項は、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由です。退職の事由が解雇の場合には、その理由も含まれます。会社は、このうち本人が請求した事項を証明し、請求していない事項は記載してはいけません。

例えば、本人が「在籍していた期間と担当業務だけを証明してほしい」と求めた場合、会社のひな形に退職理由の欄があっても、当然に自己都合退職などと書き加えるものではありません。ひな形の全欄を埋めることより、請求された範囲に合わせることを優先します。

受付時には、本人の氏名、請求日、希望する証明事項、希望する受取方法、送付先を確認します。電話で受けた場合も、担当者が内容を記録し、項目を読み合わせるなどして認識をそろえるとよいでしょう。社内様式の提出だけにこだわり、受付や交付が長引かないようにします。

転職先から渡された様式に、勤務評価や病歴などの欄がある場合も、求められるままに記載してよいとは限りません。法定の証明事項と追加の情報を分け、記載の必要性や本人の意思、個人情報の取扱いを確認してください。会社の主観的な人物評価を付け足すことは避けましょう。

雇用契約書や人事記録と照合して作成します

請求事項が分かったら、雇用契約書、労働条件通知書、従業員名簿、人事異動の記録、賃金台帳、退職届などを確認します。記憶だけで作成せず、どの資料で確認したかを残しておくと、後日の問い合わせにも対応しやすくなります。

使用期間を証明するときは、入社日と退職日を確認します。最終出勤日の後に年次有給休暇を取得して退職した場合、最終出勤日と退職日は一致しません。休職していた期間も、出勤していなかったという理由だけで雇用関係がなかった期間として扱わないようにします。

業務の種類や地位については、担当していた仕事と役職を記録で確かめます。途中で部署や仕事が変わっている場合、本人がどの期間の何を証明してほしいのかを確認します。退職時の役職だけで足りるのか、在職中の経歴が必要なのかによって、記載の仕方を整理します。

賃金の証明を求められた場合も、月額の基本給なのか、手当を含む支給額なのか、どの時点や期間の金額なのかを明確にします。金額だけを書くと、会社と提出先で意味が食い違うおそれがあります。請求の範囲を確かめたうえで、対象期間と内容が分かる形にしましょう。

指定様式がない場合は、会社で書式を用意できます。証明対象の氏名、請求された事項、証明日、会社名などを整理し、発行前に担当者や経営者がきちんと確認し、日付や氏名の誤り等がないようにします。

貸与品の返却や給与の精算と切り離して交付します

退職者がパソコンを返していない、引継ぎに不満が残っているといった事情があっても、退職証明書を交渉の材料にしないことが大切です。「返却を確認するまで発行しない」「精算に同意したら渡す」といった条件は付けず、証明書の交付と未解決の問題への対応を分けます。

法律上の交付時期は「遅滞なく」です。一律に何日以内という数字が定められているわけではありませんが、社内の決裁日や給与締め日まで当然に待たせてよいという意味ではありません。請求を受けたら担当者と確認事項を決め、必要な作業を速やかに進めます。

資料の確認に時間がかかる場合は、何を確認しているか、いつ連絡できるかを本人へ伝えます。交付見込みを知らせたことだけで義務が済むわけではないため、担当者が不在でも代わりの人が処理できるようにしておくとよいでしょう。

郵送する場合は、過去の住所をそのまま使わず、現在の送付先を確かめます。本人以外から請求や受取の希望があったときは、本人の意思や代理権を確認し、不要な情報が第三者に渡らないようにします。交付した証明書の控えと、交付日・方法も残してください。

退職理由の認識が違うときは事実関係を整理します

注意が必要なのは、会社は自己都合退職と考えているものの、本人は退職勧奨を受けたと説明している場合などです。退職届の表題だけで結論を出さず、退職に至る面談や会社からの働きかけ、合意の内容を確認します。

本人の希望する表現を、事実確認なしにそのまま証明することはできません。一方、争いがあることだけを理由に、証明書の交付を止め続けることも適切ではありません。請求内容と会社が把握する事実を整理し、見解が食い違う点については早めに専門家へ相談しましょう。

解雇理由の記載を求められた場合は、単に「就業規則による」と書くだけでは、理由が伝わらないことがあります。該当する規定と具体的な事実を確認する必要があります。解雇予告後から退職日までの間にも、解雇理由の証明を求められた場合の別の規定があるため、退職後の証明と混同しないようにします。

証明書は、退職者に対する不満を書き込むための書類ではありません。再就職を妨げる目的で、第三者と示し合わせた記号を入れることなども禁止されています。事実を正確に、請求された範囲で証明するという目的に立ち返って確認してください。

相談前には請求内容と確認資料をそろえます

例えば、従業員15人の会社で、退職者から「使用期間と業務の種類だけを証明してほしい」と連絡があったとします。会社には離職票を交付した記録があり、貸与した鍵はまだ返っていません。

この場合、まず請求された二つの項目を確認し、入社日・退職日と担当業務を人事記録で照合します。退職理由などは加えず、鍵の返却依頼は別に進めて、証明書を遅滞なく交付します。退職手続き全体が終わるのを待たずに処理できるよう、社内で役割を決めておきましょう。

相談するときは、本人から届いたメールや指定様式、会社の証明書ひな形、雇用契約書、退職届などを用意します。どの項目について判断に迷っているのかを示すと、記載内容や社内の現在の運用を具体的にどのように変更したらよいか等を検討できます。資料が不足している場合も、確認できた事項と不明な事項を分けておくことが役立ちます。

東京都豊島区の城田社会保険労務士事務所では、人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱い、労務相談のみの契約にも対応しています。退職者への書類の出し方や、担当者ごとに異なる退職手続きの整理に迷う経営者の方は、現在の請求内容と会社の対応状況をご相談ください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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