社労士の顧問契約はどこまで任せられる?中小企業が契約前に確認したい業務範囲

「社労士と顧問契約を結べば、給与計算も任せられるのだろうか」「相談だけお願いして、手続きは社内で続けてもよいのだろうか」。顧問契約を検討するときは、料金とともに、依頼できる仕事の範囲が気になるものです。
社労士の顧問契約は、どの事務所でも同じ内容というわけではありません。同じ事務所でも、相談を中心にするか、保険手続きや給与計算まで依頼するかで、契約内容が変わります。中小企業が必要な支援を選べるよう、任せる仕事と社内に残す仕事の整理方法を解説します。
顧問契約の業務は、相談・手続き・給与計算に分けて考えます
最初に、今困っていることが「判断」なのか「書類の作成・提出」なのか「毎月の計算」なのかを整理しましょう。これらは互いに関係しますが、依頼する業務としては分けて確認する必要があります。
労務相談は、残業の取り扱いや有給休暇の管理などについて、法令と自社の規則、実際の状況を踏まえて対応を検討するものです。保険手続きは、入退社や報酬の変更などに伴う届出の作成・提出を指します。給与計算では、勤怠や賃金の情報を基に支給額・控除額などを計算します。
例えば、従業員が退職するときには、保険の資格喪失の手続きだけでなく、残っている有給休暇、最終月の給与、会社から本人への説明なども問題になります。保険手続きを依頼しただけで、そのすべてが委託先の担当になるとは限りません。
当事務所では、人事・労務全般の相談に加え、社会保険・労働保険の届出、給与・賞与計算、就業規則の作成・変更などを取り扱っています。ただし、取り扱っている業務のすべてが、一つの顧問契約に含まれるという意味ではありません。必要な支援を伝え、契約に含める範囲を確認することが大切です。
相談のみの契約と、手続きも任せる契約の違い
社内で処理できる会社は、判断の支援を検討します
担当者が保険の手続きを行えていても、従業員から初めての相談を受けたときや、勤務条件を変更するときに、判断に迷うことがあります。この場合、社内の作業を残しながら、労務相談を継続して依頼する方法が考えられます。
当事務所は、労務相談のみの契約にも対応しています。担当者が調べた内容について、自社の就業規則との関係や、追加で確認すべき事情を相談したい会社にとって、検討しやすい選択肢です。
相談する際は「この対応でよいですか」という質問だけでなく、本人の希望、会社がこれまで説明した内容、関連する契約書や規則も共有しましょう。一般的な制度説明と、個別の事情を踏まえた検討では、必要な情報が異なります。従業員への説明を誰が行うかも、社内で決めておきます。
手続きを任せる場合は、年間の届出も確認します
保険手続きまで依頼する場合は、日常の入退社だけでなく、年に一度の業務も含めて確認しましょう。社会保険の算定基礎届や労働保険の年度更新などは、通常月とは別に資料の整理が必要になります。
当事務所のホームページでは、これらの定期的な届出を含む顧問契約例を案内しています。依頼したい届出を一つずつ挙げ、月額に含まれるか、別途の費用が必要かを見積り時に確認してください。会社の新規加入手続きなども、日常の届出と同じ扱いとは限りません。
給与計算を依頼する前に、勤怠の確認範囲を決めましょう
給与計算を外部に任せるときは、「勤怠データを渡す」という説明だけでは不十分です。打刻漏れの確認、休暇の区分、残業時間の集計まで、どちらが何を行うかを具体的に決めます。
例えば、終業後の打刻が遅い日があっても、その時間がすべて仕事だったのか、私用で残っていたのかは、数字だけでは分かりません。反対に、打刻前に会社の指示で準備作業をしていれば、その時間も労働時間として扱う必要があります。記録と実際の働き方を確認する役割は、計算を委託しても必要です。
厚生労働省のガイドラインでは、労働時間は使用者の指揮命令下に置かれている時間とされ、始業・終業時刻は原則として使用者の現認や客観的な記録を基に確認・記録することが示されています。勤怠システムを導入しただけで、実態を確かめる作業が不要になるわけではありません。
当事務所の料金案内も、給与計算について勤怠の集計の有無を区別しています。依頼時には、現在の記録方法と集計方法を伝え、どの状態のデータを渡す契約にするかを確認しましょう。料金表の数字だけを比較するより、自社で残る作業を把握しやすくなります。
また、給与の締日と支払日だけでなく、資料を渡す期限、会社が計算結果を確認する日、修正の連絡方法も決めます。昇給や手当の変更を、いつ誰が伝えるかも重要です。振込操作や給与明細の配布、配布の方法(Web明細や紙ベース)など、計算の後に発生する仕事も確認しておきましょう。
仮の例で考える、社内と社労士の役割分担
例えば、従業員12人の会社で、総務担当者が保険手続きと給与計算を行っているとします。手続きは続けられるものの、残業の取り扱いについて経営者と担当者の判断が分かれ、給与確定前の確認に時間がかかっている場面を考えてみましょう。これは説明のための架空の例です。
この会社で先に整理したいのは、計算を外注するかどうかよりも、何を労働時間として記録し、誰が確認するかという運用です。就業規則や賃金規程、雇用契約書、勤怠記録を基に、実際の働き方とのずれを確認します。
社内で計算を続けられるのであれば、労務相談を依頼し、判断に迷う点を整理する方法があります。一方、計算の負担も大きいなら、給与計算の委託も併せて検討できます。必要な支援は、同じ従業員数の会社でも異なります。
さらに、規則そのものの変更が必要になった場合は、日常の相談とは別の業務になるかを確認します。「相談したら規則の改訂まで済む」と思い込まず、課題の確認、変更案の作成、従業員への説明など、必要な作業を整理してから依頼を決めましょう。
見積りでは、月額に含む業務と追加業務を確認します
顧問料を比較するときは、従業員数だけで同じ条件だと考えないことが大切です。雇用形態や入退社の頻度、給与体系、会社側で準備できる資料によって、依頼内容は変わります。
当事務所では、会社ごとの状況と受託業務の内容などを踏まえて、最終的な顧問料を見積もりいたします。相談を中心にしたいのか、手続きの作業を減らしたいのか、給与計算も見直したいのかを分けて伝えると、希望する契約内容を具体化しやすくなります。
契約前には、相談できる事項、手続きの対象、給与計算の有無、就業規則の作成・変更や助成金申請の扱いを確認しましょう。連絡手段、窓口となる人、急ぎの相談の取り扱いも、双方で合意しておきたい点です。対応時間や回答までの期間を推測せず、事前に確認が必要となります。
また、初期の資料整理、賞与の計算、契約前の期間に関する修正などを依頼したい場合は、その希望も伝えます。月額以外の費用が発生する条件と、年間で想定する業務を把握すれば、契約後の行き違いを減らせます。
任せたい仕事を整理して、必要な契約を選びましょう
社労士との顧問契約を検討する際は、仕事をすべて外部に移すことを前提にする必要はありません。社内で続けられる仕事と、専門家に確認したい判断、継続して任せたい作業を整理することが出発点です。
特定の手続きだけに困っているなら、スポット依頼で対応できる場合もあります。一方、毎月のように労務上の判断が必要になる会社では、継続して事情を共有できる相談先を持つことが役立ちます。自社で対応できる範囲を踏まえ、必要な部分から検討しましょう。
豊島区で顧問社労士を検討している経営者の方も、まずは、現在の担当業務と困っている場面を簡単に書き出してみてください。当事務所では、労務相談のみの契約を含めたご相談を受け付けています。契約の名称や月額だけで決めず、会社と社労士の双方が担当する仕事を具体的に確認しておきましょう。
本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。
その他の記事
-

無断欠勤の社員と連絡が取れないときは?中小企業の初動と退職判断の注意点
「出勤予定の社員が来ず、電話にも出ない」「何日待てば退職として扱えるのか」。突然の無断欠勤では、仕事の穴を埋めながら、本人への対応も考えなければなりません。 まず必要なのは、安否と欠勤理由の確認です。連絡がないことだけで、本人が辞めたと決めつけることは避けましょう。この記事では、期間の定めのない社員を中心に、連絡が取れないときの初動、給与の処理、退職や解雇を検討する前の確認事項を解説します。 最初は安否と連絡の行き違いを確認します 出勤時刻を過ぎても姿が見えない場合は、まず勤務予定、有給休暇の申請、直行や勤務変更の連絡がないかを確認します。上司には伝えていなくても、別の担当者が欠勤連絡を受けている可能性があります。社内で確認する前に「無断欠勤」と断定しないことが大切です。 本人の携帯電話や、通常使用しているメールなどで連絡を試みます。応答がない場合は、会社が把握している緊急連絡先への確認も検討します。家族等に伝える内容は、安否確認に必要な範囲にとどめ、勤務上の評価や処分の話まで不用意に広げないようにします。 事故や急病が疑われる事情があるときは、その切迫性に応じて警察や消防への相談を検討します。自宅を訪問する場合も、会社の社員だからといって無断で住居に入れるわけではありません。安否確認と、欠勤に対する指導は分けて進めましょう。 本人と連絡が取れたら、欠勤理由、現在の状況、連絡できなかった事情、今後連絡できる方法を確かめます。体調不良や職場での問題が背景にある場合は、直ちに出勤を迫るのではなく、必要な休暇・休職の手順や、職場の状況確認を検討します。 連絡の経過を残し、回答を求める内容を具体化します 会社からの連絡は、日時、担当者、方法、伝えた内容、本人の反応を記録します。「何度も電話した」という記憶だけでなく、発信履歴やメールの本文、郵便物の控えなどを残すと、次に必要な対応を判断しやすくなります。 連絡窓口をできるだけ統一することも有効です。社長と上司が別々に連絡し、一方は出勤を求め、もう一方は退職の話をしてしまうと、会社として何を求めているのかが曖昧になります。本人から連絡があった際に誰へ報告するかも決めておきましょう。 連絡がつかない状態が続く場合は、登録された住所への書面による連絡を検討します。書面には、会社が確認している欠勤日、欠勤理由や安否の回答を求めること、連絡先、回答期限などを記載します。期限は、郵便の到達に要する時間や判明している事情を踏まえて設定します。 「返事がなければ自動的に退職とする」といった結論を、規程や事情を確認せずに書くことは避けてください。出勤を求めることが適切かどうかも、健康状態などを踏まえて判断します。内容証明郵便を使えば、記載した処分が当然に有効になるわけでもありません。 郵便が返送された場合は、宛先不明、保管期間経過、受取拒否などの理由を確認し、封筒とともに保管します。送ったという事実と、相手に通知が届いたと評価できるかは別の問題です。雇用終了の通知まで検討する段階では、通知方法も含めて専門家に確認しましょう。 欠勤中の給与と業務の引継ぎは分けて対応します 欠勤して働いていない時間については、原則として賃金は発生しません。ただし、実際に控除できる範囲や計算方法は、雇用契約と賃金規程を確認します。月給という名称だけで全額支給や全額不支給を決めず、基本給と各手当の支給条件を分けて確かめましょう。 無断欠勤があっても、既に働いた分の給与まで支払わなくてよいわけではありません。貸与したパソコンが返却されない、取引先への対応で損害が出たといった事情があっても、その費用を会社の判断で給与から差し引くことは避けてください。欠勤分の不支給と、損害賠償の問題は別に扱う必要があります。 給与の締日が迫っているときは、確認済みの勤怠と、判断が未確定の部分を整理します。社会保険の資格喪失手続きも、無断欠勤が始まっただけで進めるものではありません。雇用終了の有無や日付を確認してから、必要な手続きを検討します。 業務面では、顧客対応、納期、入金・支払いなど、止められない仕事を洗い出し、代替担当を決めます。会社の情報やシステムへのアクセスは、社内規程と必要性に応じて管理しますが、本人の私物端末や個人アカウントを当然に調べてよいわけではありません。 当事務所は、人事・労務全般の相談に加え、給与計算や社会保険・労働保険の届出代行を取り扱っています。欠勤への対応と給与の締め処理が重なる場合も、判断が必要な点と、事務処理として進める点を整理して相談できます。依頼する範囲と費用は、個別に対応となります。 「2週間で退職・解雇できる」とは限りません 無断欠勤が続くと、「2週間たてば辞めたことにできる」と考えられることがあります。しかし、無断欠勤が2週間続けば自動的に労働契約が終了するという、一般的な法律のルールはありません。 厚生労働省は、解雇予告を省略するための認定基準の例として、正当な理由のない2週間以上の無断欠勤と、出勤の督促に応じない場合を挙げています。これは、2週間経過すれば必ず解雇できるという意味ではありません。解雇予告等の例外に関する判断と、解雇そのものが有効かどうかは区別する必要があります。 就業規則に、一定期間の無断欠勤や所在不明を自然退職の事由とする規定があっても、日数だけで機械的に処理することは避けましょう。規定の内容や周知状況、欠勤理由、連絡の経過などを確認し、その規定を適用できるかを検討します。規定があれば、あらゆる場合に有効になるわけではありません。 会社から解雇する場合は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。懲戒解雇なら、就業規則上の根拠や処分の重さ、本人の説明をきく機会、定められた手続きも確認します。有期契約の途中での解雇には、原則としてやむを得ない事由が必要となるため、同じようには扱えません。 また、解雇では、原則として30日前の予告か、予告に代わる平均賃金30日分以上の手当が必要です。予告と不足日数分の手当を組み合わせる方法もあります。労働者の責任を理由に予告と手当を省略する場合には、労働基準監督署長の除外認定が必要です。懲戒解雇という名称だけで省略できるものではありません。 退職処理の前に、事実と規程をそろえて相談しましょう 例えば、従業員15人の会社で、営業担当者が3日間出勤せず、携帯電話にも応答しないとします。上司は退職扱いを提案していますが、本人は前週に体調不良を訴えており、会社からは電話しかしていません。 この段階では、辞める意思があると決めつけず、安否と欠勤理由を確認する連絡を検討します。同時に、取引先への対応を代替担当へ振り分け、勤怠と連絡の経過を残します。後日、本人から入院していたと説明があれば、資料を確認し、欠勤や休職の扱いを改めて検討します。 短期間の行き違いで、本人と連絡がつき、規程に沿って処理できる場合は、社内で対応できることもあります。一方、連絡が取れないまま雇用を終了させたい、給与から損害額を引きたい、本人と説明が食い違っている場合は、通知や処理をする前に相談することが望まれます。 相談時は、雇用契約書、就業規則、賃金規程、勤怠記録、連絡履歴、郵便物の控えを用意します。「最後に出勤した日」「最後に連絡が取れた日」「会社が確認できていないこと」を分けてまとめると、検討すべき点が明確になります。 当事務所は、解雇等のトラブルを含む労務相談のみの契約にも対応し、就業規則の作成・変更も取り扱っています。給与計算や手続きを社内で行う会社も、従業員対応や規程の運用についてご相談可能です。紛争が生じている場合や通知の法的効力が問題になる場合には、事案に応じて弁護士への相談も検討しましょう。 無断欠勤への対応は、本人の安否確認から始め、連絡の記録、給与処理、雇用終了の判断を順に進めることが大切です。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、「いつ退職にできるか」という結論を急ぐ前に、いま確認すべき事実を整理してみてください。
- 人事・労働管理
-

復職可能の診断書が出たら?中小企業が確認したい復職判断と受入れ準備
「休職中の社員から、来月から復職できるという診断書が届いた」「本人は戻りたいと言っているが、以前の仕事を任せてよいか迷っている」。こうした場面では、復職日を決める前に、医師の意見と職場の受入れ条件を整理することが大切です。 診断書は重要な判断材料ですが、それだけで従来どおりの勤務ができると決まるわけではありません。一方、会社が不安を感じるというだけで、復職を拒んでよいわけでもありません。この記事では、メンタルヘルス不調による私傷病休職からの復職を中心に、中小企業が確認すべき事項を解説します。 診断書の「復職可能」が何を前提にしているか確かめます 主治医は、診察で把握した状態などから復職について意見を示します。ただし、本人が職場で担当する作業や、繁忙期の負担まで詳しく知っているとは限りません。日常生活を送れる程度に回復したことと、職場で求められる仕事を継続できることには、違いがある場合があります。 例えば、診断書に「復職可能」とだけ記載されていても、通常の勤務時間で働けるのか、当面は残業を避ける必要があるのか、通院のための調整が必要なのかは分からないことがあります。記載が簡潔であることだけで診断書を判断せず、勤務上の条件を追加で確かめましょう。 まず本人に復職の希望時期と、医師から受けている説明を確認します。そのうえで、不明点を整理し、本人の同意を得て主治医との情報交換を検討します。産業医等の医学的な意見を踏まえ、会社が実際の業務や職場の状況と照合して、最終的な復職判断につなげます。 経営者や社労士が病状を診断したり、治療の要否を決めたりすることはできません。社労士への相談では、医学的な判断を求めるのではなく、医師に確認したい勤務条件や、就業規則上の手順を整理することをおこないます。 就業規則と仕事内容を並べて確認します 就業規則や休職規程、休職開始時の通知を用意し、復職の申請方法、必要書類、面談の手順、判断する担当者、休職期間の満了日を確認します。会社が以前に説明した内容と規程に違いがあるときは、その経緯も整理してください。 満了日が迫っている場合でも、診断書の提出日だけを見て結論を急がないことが大切です。復職の可否や期間満了時の扱いは、規程の文言に加え、実際の回復状況、労働契約の内容、配置や業務調整の可能性などを踏まえた検討が必要です。 仕事内容は、「事務職」「営業職」といった職種名だけでなく、具体的な作業に分けます。長時間の画面作業、電話の同時対応、厳しい締切、車の運転、一人で行う判断など、負担や安全に関係する事項を書き出しましょう。 主治医へ情報を伝える際も、通常の勤務時間や作業内容と、会社が調整できそうな事項を分けて示すと、勤務上の配慮について意見を得やすくなります。「完全に治ったことを証明してほしい」という抽象的な求め方では、実際の仕事との関係が明確になりません。 当事務所は、人事・労務全般の相談と就業規則の作成・変更を取り扱っています。規程に復職の手順がない、上司によって説明が異なるといった場合は、今回の対応と、今後の規程整備を分けて検討することができます。現在の休職者に不利益な条件を後から一方的に加えることにならないよう、変更の進め方も確認しましょう。 受入れ条件は業務・時間・賃金・見直し時期まで具体化します 復職を進める場合は、開始日だけでなく、当初の担当業務、勤務時間、残業や出張の扱い、相談窓口を文書にまとめます。「無理のない範囲で働く」と伝えるだけでは、本人と上司で想定する仕事量が違うままになることがあります。 勤務上の配慮は、医師の意見を踏まえ、必要性と会社が実施できる方法を検討します。短時間勤務を取り入れるなら、出退勤時刻、実施期間、賃金の計算方法、通常勤務へ戻す際の確認方法まで整理します。勤務時間を短くしたことだけで、従前の給与を自由に減らせるわけではありません。労働契約や賃金規程を確認し、必要な説明や合意の手続きを進めます。 また、「試し出勤」という名称を使えば無給にできるわけではありません。会社の指示で顧客対応や資料作成などを行わせる場合は、実態に応じて労働時間や賃金の扱いを判断する必要があります。正式な復職前の制度として実施するなら、目的、内容、期間、事故時の対応も事前に確認してください。 受入れを支える同僚の業務量も見直します。復職者の担当を減らした結果、特定の人だけに締切の厳しい仕事が集まるようでは、体制を維持しにくくなります。業務の優先順位や分担を会社として決め、現場任せにしないことが大切です。 健康情報は、仕事上の配慮に必要な範囲に絞って扱います。診断書の保管者や閲覧できる人を決め、病名や治療内容を職場全体へ当然に共有することは避けましょう。同僚に何を説明するかは、本人の意向を確認しながら、情報の内容と共有の範囲を整理します。 具体例で考える、受入れ準備と復職後の確認 例えば、従業員18人の会社で、受注入力を担当していた社員から復職の申出があったとします。主治医の意見には「当面は残業を避けること」とありますが、復職予定の月には大口取引先の締切が集中しています。。 このとき、会社が定時退社を認めても、以前と同じ件数を一人で処理するよう求めれば、実際の負担は軽くならないかもしれません。入力の件数だけでなく、締切の集中や急な修正への対応も含め、当初の仕事を検討します。 例えば、定型的な入力を中心にし、急ぎの修正は上司が受け付ける方法が考えられます。本人、上司、必要な医療関係者の意見を踏まえて実施内容を決め、一定期間後に、勤務状況と負担を確認する日を設けます。これは一例であり、全員に同じ業務制限や期間が適するわけではありません。 復職後の面談では、出勤できたかだけでなく、予定した配慮が実施されているか、業務が予定時間に収まっているか、本人が相談しにくい状態になっていないかを確認します。上司の観察と本人の説明を記録し、医師の意見も踏まえて、業務量や勤務条件を見直しましょう。 復職を認めるか迷ったら、回答前に相談しましょう 必要な情報が揃い、規程に沿って受入れ条件を決められる場合は、社内で対応できることもあります。すべての復職について、外部への依頼が必要というわけではありません。 一方、医師の意見と会社の想定する仕事が合わない、勤務時間や賃金の扱いで本人と認識が違う、休職期間満了を理由に雇用を終了しようとしている場合は、本人へ結論を伝える前に相談することが望まれます。雇用終了の有効性などをめぐって争いがある場合は、事案に応じて弁護士への相談も検討します。 相談時には、就業規則、雇用契約書、休職通知、診断書、本人とのやり取りを用意します。復職後に任せたい仕事と、調整できること・難しいことを書き添えると、会社がどこで迷っているかを伝えやすくなります。健康情報を外部に提供する際も、本人の同意など必要な取扱いを確認してください。 当事務所は、労務相談のみの契約にも対応しています。給与計算や保険手続きは社内で行いながら、従業員への説明や規程の運用について相談したい会社も、必要な支援の範囲を検討できます。契約に含まれる業務と費用は、依頼内容に応じて確認しましょう。 復職への対応では、診断書を受け取って終わりにせず、実際の仕事、勤務条件、復職後の確認方法まで整えることが重要です。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、復職を認めるかどうかだけを抱え込まず、判断に足りない情報と受入れ準備を整理するところから始めてみてください。
- 人事・労働管理
-

試用期間中なら解雇できる?本採用を迷う中小企業が確認したい判断と対応
「入社から2か月たってもミスが続く」「試用期間が終わる前に、本採用を見送ると伝えてよいのか」。採用した従業員の働きぶりに不安があるとき、判断を急ぎたくなる経営者もいるでしょう。 しかし、試用期間は、会社が自由に雇用を終了できる期間ではありません。まず確認したいのは、採用時に何を求め、どのように指導し、本人がどう対応してきたかです。この記事では、期間の定めなく採用した従業員に試用期間を設けた場合を中心に、本採用を迷ったときの確認事項と相談の進め方を解説します。 試用期間中も労働契約は成立しています 一般的な試用期間では、入社時から労働契約が成立しています。適性を確かめるために、一定の条件の下で契約を終了する権利を会社が留保していると考えられます。そのため、「まだ正式な社員ではないので、期間が終われば契約も終わる」とは扱えません。 試用期間中の解雇や、期間満了時の本採用拒否には、試用の目的に照らした客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要です。通常の解雇より判断の余地が広いとされますが、経営者の印象だけで自由に決められるという意味ではありません。 採用後に分かった勤務上の問題について、その内容や程度、採用時に期待した役割、指導の経過などを確認します。「社風に合わない」「覚えが悪い」といった評価は、何が起きたかを説明しなければ、判断の根拠が曖昧なままになります。 なお、「最初の3か月は有期契約」という場合は、試用期間付きの無期契約と同じではありません。契約期間の途中での解雇には、原則としてやむを得ない事由が必要です。満了時に更新しない場合にも別のルールが関わります。名称だけで決めず、契約書の記載と採用時の説明、実際の運用を確認しましょう。 最初に採用条件と問題の内容を照合します まず、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則、求人票などを揃え、試用期間の開始日と終了日、担当業務、本採用の判断に関する定めを確認します。求人票で説明した仕事と、入社後に任せている仕事に違いがないかも見てください。 同じ「仕事が遅い」という問題でも、未経験者として育成する前提で採用した場合と、特定の業務を任せる即戦力として採用した場合では、確認すべき事情が異なります。会社が求める水準を本人に伝えていなかったり、必要な研修を受けさせていなかったりすれば、本人の能力だけを問題にすることは適切ではありません。 次に、問題が起きた日、担当した仕事、指示の内容、結果、業務への影響を整理します。納期の遅れであれば、当初の期限、途中の追加指示、業務量、本人からの相談の有無まで確認すると、原因を検討しやすくなります。 遅刻や欠勤についても、勤怠記録だけでなく、連絡の状況や本人が説明した事情を確認します。体調や職場環境に関する訴えがあるときは、単なる勤務態度の問題と決めつけず、必要な配慮や事実確認を別途検討してください。 当事務所では、解雇等のトラブルを含む人事・労務全般の相談を取り扱っています。「本採用を断れるか」だけでなく、判断に必要な資料が不足していないか、会社側の説明や運用に課題がないかという段階から、相談事項を整理いたします。 指導は改善してほしい行動と確認日を具体的にします 指導するときは、「もっとしっかりしてほしい」という抽象的な注意で終わらせず、どの仕事の、どの行動を改善してほしいかを伝えます。本人の説明も聞き、理解不足なのか、指示が曖昧なのか、業務量に無理があるのかを確かめましょう。 例えば、入力ミスが続く場合は、確認手順を一緒に見直し、提出前に照合する項目を示す方法があります。そのうえで、次にいつ状況を確認するか、誰が支援するかを決めます。仕事の性質や習得に必要な時間に応じ、改善の状況を確認できる進め方にすることが大切です。 面談後は、日時、伝えた内容、本人の説明、会社が行う支援、次回の確認予定を記録します。改善した点も残してください。不利な出来事だけを集めると、実際の変化や会社の指導状況を正しく把握できなくなります。 記録は、解雇するための材料を後から作るものではありません。本人と会社の認識をそろえ、勤務を続けられる可能性を検討するためのものです。過去にしていない注意をしたことにしたり、面談記録の日付をさかのぼらせたりしてはいけません。 例えば、従業員12人の会社で、未経験で採用した事務担当者に請求書の入力ミスが続いているとします。社長は能力不足を心配していますが、担当者ごとに入力方法が違い、確認者も決まっていませんでした。 この場合、まず入力方法と確認者を統一し、本人に手順を説明して、作業結果を確認することが考えられます。その後も問題が続くか、どの部分が改善したかを見ます。「ミスが何回あれば解雇できる」と回数だけで結論を出すことはできません。 試用期間の延長と解雇予告は分けて検討します 試用期間の終わりが近づくと、「判断できないので延長したい」と考えることもあるでしょう。ただし、延長を当然にできるとは限りません。就業規則や契約の根拠、延長の必要性、期間の相当性、本人への説明などを確認する必要があります。 延長する場合も、何を確かめるための期間なのか、評価する業務、会社が行う支援、判断時期を明らかにします。単に結論を先送りするために繰り返し延長する運用は避けましょう。本人の同意があれば、どのような延長でも問題がなくなるわけではありません。 解雇を検討する場合には、解雇理由の妥当性とは別に、解雇予告等の手続きを確認します。試用期間中の従業員でも、14日を超えて引き続き雇用した場合は、原則として30日前の予告か、予告に代わる平均賃金30日分以上の解雇予告手当が必要です。予告期間が30日に足りない場合は、不足日数分の手当を支払う方法もあります。 最初の14日以内に解雇予告の例外が適用される場合でも、合理的な理由が不要になるわけではありません。また、解雇予告手当を払えば、理由に問題のある解雇まで有効になるわけでもありません。手続きと解雇の有効性を混同しないことが重要です。 本採用を見送る旨を伝えてから、理由や手続きを整えようとすると、既に伝えた説明との食い違いが生じることがあります。終了日だけを先に決めず、判断理由と必要な手続きを、本人への通知前に確認しましょう。 本採用に迷ったら満了前に社労士へ相談しましょう 評価基準が明確で、指導後に改善が見られ、本採用する方向で問題なく進められる場合は、社内の手順で対応できることもあります。すべての試用期間について、外部への依頼が必要というわけではありません。 一方、本採用を見送りたい、延長の根拠が分からない、上司によって評価が違う、既に本人へ退職を求めたといった場合は、早めの相談が望まれます。満了直前まで待たず、どの時点で何を確認するかを検討する時間を確保しましょう。 相談時には、契約書、労働条件通知書、就業規則、求人票、勤怠記録、指導や面談の記録を用意してください。会社が困っていることに加え、本人の説明と改善状況も共有してください。資料が全部揃っていなくても、手元にあるものと未確認の事項を分ければ、相談の出発点になります。 当事務所は、労務相談のみの契約に対応し、就業規則の作成・変更も取り扱っています。手続きや給与計算を社内で行っている会社も、従業員への対応判断についてご相談可能です。継続的な相談や規程の見直しを依頼する場合にも、柔軟に対応可能ですので、ご相談ください。 既に解雇の有効性をめぐって争いが生じている場合などは、事案に応じて弁護士への相談も検討します。社労士に相談すれば、あらゆる紛争の交渉や訴訟まで任せられるというものではありません。 試用期間の対応で大切なのは、満了日に結論を出すことだけではなく、採用時の期待を具体化し、指導と評価を積み重ねることです。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、本採用を見送ると伝える前に、契約と事実関係を整理し、適切な対応をご相談ください。
- 人事・労働管理