士業コラム
社員から通院のため勤務時間の調整を求められたら?会社の対応と注意点

社員から通院のため勤務時間の調整を求められたら?会社の対応と注意点

社員から「治療のため月に数回、勤務時間をずらしたい」「通院日は早退させてほしい」と相談されたとき、会社はどこまで対応すべきでしょうか。業務への影響を心配する一方で、病気を理由に勤務を続けられなくなることは避けたいものです。

通院への配慮は、すべての希望を無条件に認めることでも、一律に断ることでもありません。本人の希望、医師の意見、仕事の内容、既存の勤務制度を確認し、実行できる調整を検討することが大切です。ここでは中小企業の経営者が確認したい事項と対応手順を説明します。

通院の申し出を受けたときに最初に確認すること

勤務を続けるうえで何が支障になっているか

最初に聞くべきなのは病名の詳細ではなく、仕事と治療を両立するために何が必要なのかという点です。通院する曜日と頻度、必要な移動時間、治療後の体調、残業や出張への影響などを、本人が説明できる範囲で確認します。治療予定が一定期間だけなのか、継続する見込みなのかによっても調整方法は変わります。

本人の希望が「毎週水曜日に1時間早退したい」というものであれば、業務を引き継ぐ時間や、始業を早める方法がないかなど、具体的な検討に進めます。反対に、体調が不安定で就業の可否自体が問題になる場合には、単なる勤務時間の変更だけで判断せず、医師の意見を確認する必要があります。

医師の意見は業務内容と結び付けて確認する

必要に応じて、本人を通じて主治医に業務内容や勤務状況を伝え、就業上の注意点について意見を求めます。たとえば立ち仕事、重量物の運搬、夜勤、長時間の運転など、具体的な作業を示すことで、勤務上の制限を判断しやすくなります。産業医等がいる場合はその意見も踏まえます。

健康情報は特に慎重な管理が必要です。診断書や治療情報を必要以上に集めたり、本人の同意なく同僚へ病名を知らせたりすることは避けましょう。上司に共有する内容も、勤務調整に必要な範囲に絞ります。

会社は勤務時間の変更を必ず認めなければならない?

一律の義務と個別に検討すべき配慮を分ける

一般に、私傷病による通院のため、会社がすべての希望どおりに時差出勤や短時間勤務を認める一律の法的義務があるわけではありません。ただし、労働契約上の安全配慮義務や、障害に該当する場合の合理的配慮など、個別事情に応じて検討すべき義務があります。病気の種類だけで結論を出さず、具体的な支障と調整の可能性を確認してください。

2026年に示された厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」でも、本人の申出を端緒に、主治医等の意見を踏まえて就業上の措置を検討する考え方が示されています。会社の繁忙だけを理由に必要な健康上の配慮を軽視しない一方、本人と十分に話し合い、実行可能な方法を検討することが重要です。

選択肢は早退の承認だけではない

時差出勤、始業・終業時刻の変更、所定労働時間の短縮、勤務日の入替え、業務分担の変更、通院日に合わせた休暇取得など、複数の選択肢があります。ただし、フレックスタイム制や時間単位年休などは導入要件があり、会社が自由に運用できるとは限りません。既存の就業規則と労使協定を確認し、制度を新設する場合は必要な手続きを整えます。

たとえば接客担当者が毎週決まった時間に通院するなら、他の担当者との交代が可能かを確認します。一人しか担当できない業務であれば、通院日だけ事前に作業を振り替える方法も考えられます。調整が難しい理由は抽象的に説明せず、業務上の制約を本人と共有しましょう。

通院で働かなかった時間の給与はどう扱う?

有給・無給の扱いを事前に明確にする

私傷病による通院時間について、法律上当然に有給の特別休暇を与える制度があるわけではありません。年次有給休暇を利用する場合はその制度に従い、会社独自の病気休暇や通院休暇がある場合は規程を確認します。無給とする場合も、月給者の欠勤控除の計算方法が就業規則や賃金規程と整合しているか確認が必要です。

所定労働時間を変更して別の時間帯に勤務するのか、単に勤務時間を短縮するのかによっても給与の扱いは異なります。本人が後で不足時間を働けば必ず相殺できるという単純な問題ではなく、労働時間の通算や割増賃金、法定休日なども確認しなければなりません。口頭で曖昧に約束せず、勤務時間と賃金の取扱いを記録します。

勤怠記録と給与計算を一致させる

早退、欠勤、年休、時差出勤を勤怠システムで区別して記録します。実際に働いた時間(実労働時間)と、通院による不就労時間(控除対象)を勤怠データ上で正確に区別して管理します。タイムカード等の打刻時間を後から操作してはいけません。また、本人の了承がないまま年休として処理することも避けてください。給与担当者が迷わないよう、承認手順と入力区分を統一しておくと実務上の誤りを減らせます。

勤務調整を決めるまでの具体的な進め方

まず試行期間を設けて見直す

調整内容を最初から無期限で固定する必要はありません。たとえば「今後2か月間は火曜日のみ終業時刻を1時間早める」と決め、通院予定や業務への影響を確認する方法があります。試行期間中に本人と上司が定期的に話し合い、必要なら勤務内容や期間を見直します。

決定事項は、対象期間、勤務日と時間、担当業務、給与の扱い、連絡方法、見直し時期を簡潔に書面化するとよいでしょう。労働条件の変更を伴う場合は、本人との合意や必要な明示事項も確認します。書面化は本人を監視するためではなく、認識の食い違いを防ぐためのものです。

他の社員への説明は必要最小限にする

担当業務の再配分が生じる場合、周囲の社員への説明も必要です。ただし病名や治療内容を知らせる必要があるとは限りません。「一定期間、勤務時間を調整するため担当を変更する」といった業務上必要な情報にとどめ、本人のプライバシーを守ります。負担が一部の社員に集中しないよう、交代方法や応援体制も検討します。

判断に迷うときは就業規則と実際の運用を確認する

たとえば、これまで通院の早退を認めたことがない会社で、初めて継続的な勤務調整の申出があったとします。特例として対応する場合でも、誰が承認し、どの条件で見直すかを決めなければ、今後の運用にばらつきが生じます。一方、既存の規程が実情に合っていなければ、制度自体を見直す選択肢もあります。

特に、勤務時間の短縮が長期化する場合、賃金や社会保険の取扱い、業務内容の変更などが複雑になります。障害者雇用に関する合理的配慮が問題となる場合もあり、単に「他の社員と同じ扱いだから」として判断するのは適切とは限りません。個別の事情を整理してから対応を決めましょう。

相談に際しては、就業規則・賃金規程、雇用契約書、本人からの申出内容、勤務予定表、業務内容の一覧、必要に応じた医師の意見書を用意すると、論点を整理しやすくなります。医療情報は本人の意向と取扱いに十分配慮してください。

城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。通院への配慮と事業運営を両立させるため、勤務制度や給与の取扱いを整理したい場合は、具体的な状況を踏まえて社会保険労務士に相談することも一つの方法です。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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