社員が裁判員に選ばれたら?会社が確認したい休暇と給与の対応

社員から「裁判員候補者として裁判所に呼び出されました。仕事を休めますか」と相談されたとき、会社はどう対応すればよいのでしょうか。人員に余裕のない中小企業では、急な欠員に困ることもあります。一方、裁判員としての職務に必要な時間は法律で保障されており、会社の都合だけで出席を断らせることはできません。
また、休暇を認めることと、その時間の給与を支払うことは別の問題です。この記事では、通知を受けた段階から裁判終了までの確認事項、賃金や勤怠の扱い、就業規則を整える際のポイントを解説します。
裁判員のための休暇は会社が認める必要がある
裁判員候補者の段階でも対応が必要
労働基準法第7条は、労働者が公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合、使用者は原則として拒めないと定めています。裁判員や補充裁判員だけでなく、裁判員候補者として選任手続に出席する場合も対象です。
会社は「繁忙期だから有給休暇を使ってほしい」「代わりがいないので裁判所には行かないでほしい」と一方的に決めることは避けなければなりません。法律上、職務の執行に妨げがない限り請求された時刻を変更できる規定はありますが、裁判所が指定する出席日時を会社の判断で自由に動かせるわけではありません。
なお、裁判員候補者名簿への記載通知が届いたことと、実際に裁判所へ出頭する呼出しを受けたことは異なります。最初の通知だけで直ちに何日も休む必要が生じるとは限りません。会社は通知の種類と予定を落ち着いて確認しましょう。
辞退を会社が強要することはできない
裁判員制度には一定の辞退事由がありますが、単に会社が忙しいという理由で必ず辞退できるわけではありません。従業員が辞退について相談してきた場合は、業務への影響を説明し、必要な事情を本人が裁判所に伝える方法を確認することは考えられます。ただし、参加する意思がある社員に辞退を強要してはいけません。
裁判員としての休暇取得や候補者であることなどを理由とする解雇その他の不利益取扱いも、裁判員法第100条で禁止されています。欠勤を理由に懲戒処分を検討したり、評価を不当に下げたりする対応には注意が必要です。
休暇中の給与は有給と無給のどちらにするか
休暇の保障と賃金支払いは別の問題
裁判員のために必要な休みを認める義務があっても、その時間を必ず有給にする法律上の義務があるわけではありません。特別有給休暇とするか、無給の特別休暇とするかは、会社の就業規則や労働契約の定めを確認して判断します。
例えば、既に就業規則で「公民権行使・公の職務に必要な時間は有給とする」と定めている場合、裁判員の出席もその対象となるかを確認する必要があります。規定がないからといって、担当者の判断だけで毎回異なる取扱いにすると、不公平感や賃金計算の混乱が生じかねません。
年次有給休暇は本人の請求に基づいて取得する制度です。会社が裁判員の出席日を一方的に年休として処理するのではなく、裁判員休暇としての取扱いを明確にすることが望まれます。
裁判所の日当と会社の給与を混同しない
裁判員等には裁判所から日当や旅費などが支給される場合があります。しかし、日当は会社が支払う賃金ではありません。会社が特別有給休暇を設けたからといって、社員が受け取った日当を当然に会社へ納付させたり、給与から無条件に差し引いたりできるわけではありません。
法務省の説明でも、日当の会社への納付によって社員に実質的な不利益が生じる規定や、有給休暇の給与から日当を差し引く取扱いには問題が生じ得るとされています。日当との調整を検討する場合は、制度設計と賃金支払いの根拠を慎重に確認する必要があります。
社員から通知を受けたときの確認手順
まず通知の種類と必要な日程を確認する
最初に、候補者名簿への記載通知なのか、選任手続の呼出しなのか、裁判員等への選任が決まったのかを確認します。社員には、裁判所から案内された出席日、見込まれる日数、今後の日程変更の可能性を、分かる範囲で共有してもらいましょう。
ただし、裁判員等を特定する情報には公表制限があります。休暇手続のために上司や人事担当者へ知らせることは差し支えありませんが、社内掲示やSNSなどで本人の氏名と裁判員である事実を不特定多数に公開しないよう、情報共有の範囲を限定してください。
勤怠区分と給与計算を決める
次に、就業規則、特別休暇規程、賃金規程を確認します。休暇が有給か無給か、半日単位・時間単位での処理が可能か、月給者の控除計算をどうするかを整理します。規定が不明確な場合は、今回の社員だけに口頭で説明して終わらせず、今後も同じ判断ができるように記録を残すことが重要です。
年次有給休暇の出勤率計算にも注意が必要です。裁判員等の職務のために就労しなかった日は、法律上当然に出勤したものとみなす日ではありませんが、原則として8割出勤率の計算に用いる全労働日から除外して扱うべきものとされています。会社が社員に有利に出勤扱いとすることも可能です。
業務の引継ぎは本人に過度な負担をかけない
出席予定が分かったら、担当業務の優先順位を見直し、代替担当者を決めます。特定の社員しか処理できない業務は、期限や取引先への連絡を早めに整理しておくと安心です。
一方、裁判員として休む分の仕事をすべて前後の日に詰め込んだり、長時間労働で埋め合わせることを当然としたりするのは適切ではありません。引継ぎのために実際に時間外労働が発生する場合は、通常の労働時間管理と割増賃金のルールも守る必要があります。
就業規則に裁判員休暇を設ける際の注意点
申請方法と対象者を明確にする
今後に備えるなら、裁判員、補充裁判員、裁判員候補者を対象とした休暇規定を検討しましょう。厚生労働省のモデル就業規則にも裁判員等のための休暇の規定例があります。
規定には、対象となる職務、必要な日数または時間、申出の方法、給与の有無、予定が変わった場合の連絡方法などを盛り込むと運用しやすくなります。裁判所からの通知書類を確認する場合も、必要な部分だけを確認し、個人情報を過剰に収集しないことが大切です。
制度変更時は既存の労働条件を確認する
新たに有給の裁判員休暇を設けることと、従来有給だった公の職務の休暇を無給に変更することでは、検討すべき点が異なります。後者は労働条件の不利益変更となる可能性があるため、就業規則の変更手続だけでなく、労働契約との関係や変更の合理性を確認する必要があります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・変更時に所轄労働基準監督署への届出等が必要です。10人未満でも、休暇や賃金の扱いを文書化し、従業員に周知しておくことが望まれます。
具体的な対応例と専門家に相談したい場面
例えば、従業員8人の会社で、営業担当者から「来月、裁判員候補者の選任手続に行くため休みたい」と申し出があったとします。
会社はまず出席予定を確認し、必要な時間を確保します。次に休暇規程を調べ、給与の扱いを本人へ説明します。そのうえで、顧客対応の代理担当を決め、当日の勤怠処理を記録します。選任された場合には追加の出席が必要になる可能性もあるため、業務分担は変更できる余地を残しておくとよいでしょう。
もし「特別休暇の規定がない」「給与控除の計算方法が決まっていない」「以前の社員と扱いが違う」といった状況なら、個別対応だけでなく制度全体の点検が有用です。従業員の権利を守りながら業務を継続するには、休暇制度と賃金規程を一体で整理する必要があります。
城田社会保険労務士事務所では、中小企業の労務管理や就業規則作成を取り扱っています。裁判員休暇の取扱いに迷う場合は、現在の就業規則・賃金規程、社員からの申出内容、勤務予定表、これまでの特別休暇の運用状況を準備して相談すると、検討すべき点を整理しやすくなります。社員が安心して公の職務に参加でき、会社も混乱なく対応できる仕組みを整えておきましょう。
本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。
その他の記事
-

深夜まで残業した社員を翌朝も出勤させてよい?会社の対応と注意点
社員が急な顧客対応や納期の都合で深夜まで残業し、帰宅したのが午前0時を過ぎていた。それでも翌朝は普段どおり午前9時に出勤してもらってよいのでしょうか。中小企業では、限られた人数で業務を回しているため、翌日の勤務を調整したくても代わりの担当者が見つからないことがあります。 この問題では、法律上必ず確保しなければならない休息時間があるのか、社員の健康を守るために会社が何を検討すべきか、始業時刻を遅らせた場合の給与をどう扱うかを分けて考える必要があります。深夜残業が発生したときの確認事項と対応手順を整理します。 深夜残業の翌朝も通常どおり出勤させられる? 一律に何時間休ませるという法律上の規制はあるか 一般の民間企業について、終業から翌日の始業まで一律に11時間などの休息時間を確保することが、すべての事業場に法律で義務付けられているわけではありません。勤務間インターバル制度の導入は、労働時間等設定改善法に基づく事業主の努力義務です。したがって、制度を導入していない会社で、前夜の残業だけを理由に翌朝の通常出勤が直ちに違法になるとは限りません。 ただし、会社が自由に連続勤務を命じてよいという意味ではありません。労働基準法上の労働時間、休憩、休日、時間外・休日労働の上限規制を守る必要があります。加えて、会社には労働契約法上、社員の生命や身体の安全に配慮する義務があります。疲労の程度や仕事の危険性によっては、通常出勤を見直す必要があります。 勤務間インターバル制度とは 勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までに一定の休息時間を確保する仕組みです。例えば午後11時に終業した社員について、11時間の休息を確保する社内ルールであれば、翌日の始業時刻は午前10時以降となります。11時間は制度設計の一例であり、すべての会社に一律に適用される法定の時間数ではありません。 すでに就業規則や労使協定、社内規程で休息時間を定めている会社では、その定めに従った運用が必要です。まず自社のルールを確認してください。 翌朝の出勤を判断する前に確認したいこと 実際の終業時刻と翌日の業務 最初に確認したいのは、社員が何時まで実際に働いたかです。勤怠記録だけでなく、業務連絡や持ち帰り作業の有無も必要に応じて確認します。会社の指示による作業や、黙示の指示の下で行われた作業は労働時間に当たる場合があります。 次に、翌日の仕事内容を確認します。車両の運転、機械操作、高所作業など、疲労による事故の危険が高い業務では、始業時刻の変更だけでなく担当業務の変更も検討すべきです。また、マイカー通勤やバイク・自転車通勤の社員がいる場合、極度の睡眠不足による通勤途中の居眠り運転事故リスクにも配慮しなければなりません。過度な疲労を把握しながら漫然と出勤を命じた場合、会社の安全配慮義務違反が問われるおそれがあります。事務作業でも、睡眠不足による判断ミスや体調悪化を軽視できません。 残業が例外的か、繰り返されているか 突発的なトラブルで一度だけ深夜残業が発生した場合と、毎週のように遅い時間まで働いている場合では、会社が検討すべき対応が異なります。後者では、翌朝だけを調整しても長時間労働の問題が残ります。業務量、人員配置、納期設定、管理職の指示方法を見直す必要があります。 時間外・休日労働が36協定の範囲内か、上限規制を超えていないかも確認します。長時間労働者への医師による面接指導など、労働安全衛生法上の対応が必要となる場合もあります。 翌日の勤務時間を調整するときの実務対応 始業時刻の繰下げや業務変更を検討する 例えば午後11時まで働いた社員が翌朝9時に出勤する予定であれば、休息時間は10時間です。会社の制度や本人の体調、翌日の仕事を踏まえ、午前10時や11時からの勤務に変更できないか検討します。必要に応じて午前中の業務を別の社員に引き継ぐ、会議を延期する、危険性の高い作業を外すといった対応も考えられます。 始業時刻を変更するときは、本人に理由と変更後の勤務時間を伝え、勤怠システムにも正しく反映します。本人の希望だけに任せず、上司や人事担当者が判断を記録しておくと、同様の事態が起きたときにも対応を統一しやすくなります。 遅らせた時間の給与はどうするか 始業時刻を遅らせた時間を有給扱いにするのか、終業時刻も繰り下げて所定労働時間を確保するのか、勤務を免除して賃金をどう扱うのかは、就業規則や労働契約、変更の経緯によって判断が変わります。会社が勤務を免除した場合には、労働基準法26条の休業手当が問題となることもあります。単純に「働いていない時間だから無給」と処理するのは避けてください。 また、前夜に発生した時間外労働や深夜労働の割増賃金は、翌朝の勤務時間を短くしたことによって当然に消えるものではありません。給与計算では前日と翌日の労働時間をそれぞれ正確に記録し、法定労働時間や割増賃金の要件に従って処理します。 繰り返さないための社内ルールの整え方 緊急対応時の連絡・承認ルートを決める 深夜残業が発生するたびに経営者が個別判断していると、部署や上司によって扱いが変わりやすくなります。一定時刻を超えて勤務した場合は誰に報告するか、翌朝の出勤を誰が決めるか、取引先との調整を誰が行うかを決めておくと実務が安定します。 例えば、午後10時以降まで勤務した社員については、上司が翌朝の業務予定と本人の体調を確認し、人事担当者と勤務調整を協議するという運用が考えられます。 制度を導入する場合は例外処理まで定める 勤務間インターバル制度を導入する場合は、確保する休息時間、対象者、始業時刻の繰下げ方法、給与の取扱い、緊急対応時の例外、勤怠管理方法を整理します。制度を設けるだけで、実際には翌朝の会議に必ず出席させているようでは機能しません。 就業規則に定める内容と、現場の運用を一致させることが重要です。勤務時間制度の変更によって労働条件に影響が生じる場合には、必要な手続きや社員への説明も確認します。 会社だけで判断しにくいときは労務相談を 一度の突発的な残業であれば、実際の終業時刻と翌日の業務、本人の体調を確認し、上司と人事担当者で勤務を調整できる場合があります。一方、深夜残業が繰り返される、始業時刻を遅らせた際の賃金処理が決まっていない、部署ごとに運用が違うといった場合は、社内ルールを含めた見直しが必要です。 相談の際には、直近の勤怠記録、36協定、就業規則、雇用契約書、給与計算の方法、深夜残業が発生する業務の内容を用意すると、論点を整理しやすくなります。 城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。翌朝の勤務調整をどのように運用するか迷う場合は、実際の勤務状況と社内規程を確認したうえで相談することをお勧めします。
- 人事・労働管理
-

社員から通院のため勤務時間の調整を求められたら?会社の対応と注意点
社員から「治療のため月に数回、勤務時間をずらしたい」「通院日は早退させてほしい」と相談されたとき、会社はどこまで対応すべきでしょうか。業務への影響を心配する一方で、病気を理由に勤務を続けられなくなることは避けたいものです。 通院への配慮は、すべての希望を無条件に認めることでも、一律に断ることでもありません。本人の希望、医師の意見、仕事の内容、既存の勤務制度を確認し、実行できる調整を検討することが大切です。ここでは中小企業の経営者が確認したい事項と対応手順を説明します。 通院の申し出を受けたときに最初に確認すること 勤務を続けるうえで何が支障になっているか 最初に聞くべきなのは病名の詳細ではなく、仕事と治療を両立するために何が必要なのかという点です。通院する曜日と頻度、必要な移動時間、治療後の体調、残業や出張への影響などを、本人が説明できる範囲で確認します。治療予定が一定期間だけなのか、継続する見込みなのかによっても調整方法は変わります。 本人の希望が「毎週水曜日に1時間早退したい」というものであれば、業務を引き継ぐ時間や、始業を早める方法がないかなど、具体的な検討に進めます。反対に、体調が不安定で就業の可否自体が問題になる場合には、単なる勤務時間の変更だけで判断せず、医師の意見を確認する必要があります。 医師の意見は業務内容と結び付けて確認する 必要に応じて、本人を通じて主治医に業務内容や勤務状況を伝え、就業上の注意点について意見を求めます。たとえば立ち仕事、重量物の運搬、夜勤、長時間の運転など、具体的な作業を示すことで、勤務上の制限を判断しやすくなります。産業医等がいる場合はその意見も踏まえます。 健康情報は特に慎重な管理が必要です。診断書や治療情報を必要以上に集めたり、本人の同意なく同僚へ病名を知らせたりすることは避けましょう。上司に共有する内容も、勤務調整に必要な範囲に絞ります。 会社は勤務時間の変更を必ず認めなければならない? 一律の義務と個別に検討すべき配慮を分ける 一般に、私傷病による通院のため、会社がすべての希望どおりに時差出勤や短時間勤務を認める一律の法的義務があるわけではありません。ただし、労働契約上の安全配慮義務や、障害に該当する場合の合理的配慮など、個別事情に応じて検討すべき義務があります。病気の種類だけで結論を出さず、具体的な支障と調整の可能性を確認してください。 2026年に示された厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」でも、本人の申出を端緒に、主治医等の意見を踏まえて就業上の措置を検討する考え方が示されています。会社の繁忙だけを理由に必要な健康上の配慮を軽視しない一方、本人と十分に話し合い、実行可能な方法を検討することが重要です。 選択肢は早退の承認だけではない 時差出勤、始業・終業時刻の変更、所定労働時間の短縮、勤務日の入替え、業務分担の変更、通院日に合わせた休暇取得など、複数の選択肢があります。ただし、フレックスタイム制や時間単位年休などは導入要件があり、会社が自由に運用できるとは限りません。既存の就業規則と労使協定を確認し、制度を新設する場合は必要な手続きを整えます。 たとえば接客担当者が毎週決まった時間に通院するなら、他の担当者との交代が可能かを確認します。一人しか担当できない業務であれば、通院日だけ事前に作業を振り替える方法も考えられます。調整が難しい理由は抽象的に説明せず、業務上の制約を本人と共有しましょう。 通院で働かなかった時間の給与はどう扱う? 有給・無給の扱いを事前に明確にする 私傷病による通院時間について、法律上当然に有給の特別休暇を与える制度があるわけではありません。年次有給休暇を利用する場合はその制度に従い、会社独自の病気休暇や通院休暇がある場合は規程を確認します。無給とする場合も、月給者の欠勤控除の計算方法が就業規則や賃金規程と整合しているか確認が必要です。 所定労働時間を変更して別の時間帯に勤務するのか、単に勤務時間を短縮するのかによっても給与の扱いは異なります。本人が後で不足時間を働けば必ず相殺できるという単純な問題ではなく、労働時間の通算や割増賃金、法定休日なども確認しなければなりません。口頭で曖昧に約束せず、勤務時間と賃金の取扱いを記録します。 勤怠記録と給与計算を一致させる 早退、欠勤、年休、時差出勤を勤怠システムで区別して記録します。実際に働いた時間(実労働時間)と、通院による不就労時間(控除対象)を勤怠データ上で正確に区別して管理します。タイムカード等の打刻時間を後から操作してはいけません。また、本人の了承がないまま年休として処理することも避けてください。給与担当者が迷わないよう、承認手順と入力区分を統一しておくと実務上の誤りを減らせます。 勤務調整を決めるまでの具体的な進め方 まず試行期間を設けて見直す 調整内容を最初から無期限で固定する必要はありません。たとえば「今後2か月間は火曜日のみ終業時刻を1時間早める」と決め、通院予定や業務への影響を確認する方法があります。試行期間中に本人と上司が定期的に話し合い、必要なら勤務内容や期間を見直します。 決定事項は、対象期間、勤務日と時間、担当業務、給与の扱い、連絡方法、見直し時期を簡潔に書面化するとよいでしょう。労働条件の変更を伴う場合は、本人との合意や必要な明示事項も確認します。書面化は本人を監視するためではなく、認識の食い違いを防ぐためのものです。 他の社員への説明は必要最小限にする 担当業務の再配分が生じる場合、周囲の社員への説明も必要です。ただし病名や治療内容を知らせる必要があるとは限りません。「一定期間、勤務時間を調整するため担当を変更する」といった業務上必要な情報にとどめ、本人のプライバシーを守ります。負担が一部の社員に集中しないよう、交代方法や応援体制も検討します。 判断に迷うときは就業規則と実際の運用を確認する たとえば、これまで通院の早退を認めたことがない会社で、初めて継続的な勤務調整の申出があったとします。特例として対応する場合でも、誰が承認し、どの条件で見直すかを決めなければ、今後の運用にばらつきが生じます。一方、既存の規程が実情に合っていなければ、制度自体を見直す選択肢もあります。 特に、勤務時間の短縮が長期化する場合、賃金や社会保険の取扱い、業務内容の変更などが複雑になります。障害者雇用に関する合理的配慮が問題となる場合もあり、単に「他の社員と同じ扱いだから」として判断するのは適切とは限りません。個別の事情を整理してから対応を決めましょう。 相談に際しては、就業規則・賃金規程、雇用契約書、本人からの申出内容、勤務予定表、業務内容の一覧、必要に応じた医師の意見書を用意すると、論点を整理しやすくなります。医療情報は本人の意向と取扱いに十分配慮してください。 城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。通院への配慮と事業運営を両立させるため、勤務制度や給与の取扱いを整理したい場合は、具体的な状況を踏まえて社会保険労務士に相談することも一つの方法です。
- 人事・労働管理
-

社員から忌引き休暇を求められたら?会社の対応と給与の注意点
社員から「親が亡くなったので、数日休ませてください」と連絡を受けたとき、会社は何日間の休暇を認めればよいのでしょうか。給与を支払う必要があるのか、就業規則に忌引き休暇の定めがない場合はどうするのか、判断に迷う経営者もいるでしょう。 忌引き休暇は、会社が独自に設けることの多い特別休暇です。法律上の年次有給休暇とは異なり、日数や給与の扱いは社内規程などによって変わります。この記事では、申請を受けた際の確認事項から、規程がない場合の対応、今後の制度整備まで説明します。 忌引き休暇は法律で義務付けられている? 忌引き休暇は会社が設ける特別休暇 労働基準法は、親族が亡くなった場合に一律何日間の忌引き休暇を与えるべきかを定めていません。忌引き休暇を設けるかどうか、対象となる親族、付与日数などは、原則として会社が制度設計する事項です。 ただし、会社が就業規則や労働契約で忌引き休暇を定めている場合、単に法定外の休暇だからという理由で申請を無視したり、規定に反して拒んだりすることはできません。まず自社の定めを確認することが出発点です。 年次有給休暇との違い 年次有給休暇は、法律上の要件を満たした労働者に付与される休暇です。一方、忌引き休暇は会社独自の制度で、年次有給休暇の残日数とは別に管理するのが一般的です。 忌引き休暇の制度がない場合でも、社員が年次有給休暇を請求することはできます。年休については、事業の正常な運営を妨げる場合の時季変更権など、法律上のルールに沿って対応しなければなりません。「忌引き制度がないから休めない」と一括して説明しないよう注意しましょう。 申請を受けたら何を確認する? 対象となる親族と休暇日数 就業規則の慶弔休暇規定に、配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹など、どの範囲の親族を対象としているかを確認します。本人との続柄によって日数を分けている会社もありますが、全国共通の法定日数はありません。 「父母は何日、祖父母は何日」といった具体的な数字を、他社の例だけで自社の義務と考える必要はありません。反対に、既存の規程に日数が書かれていれば、その内容を基本に判断します。死亡日から数えるのか、葬儀日から数えるのかも確認が必要です。 休日や遠方への移動をどう扱うか 例えば、金曜日に親族が亡くなり『3日間の忌引き休暇』を取得する場合、土日を挟むと扱いが大きく異なります。暦日計算であれば『金・土・日』で消化され、所定労働日としては金曜の1日しか休めません。一方、所定労働日計算であれば土日を除いて『金・月・火』と休めるため、月曜日の葬儀にも対応しやすくなります。トラブル防止のため、起算日とあわせて明確にしておく必要があります。暦日で数える規定なのか、所定労働日だけを数える規定なのかを確認してください。 遠方への移動が必要な場合の追加日数、分割取得の可否、申請期限も判断が分かれやすい点です。規程が曖昧なまま担当者ごとに扱いを変えると、後に不公平感が生じかねません。判断した理由を記録しておくと、次回の運用にも役立ちます。 申請方法と確認資料 突然の不幸では、社員が事前に正式な申請書を提出できないこともあります。まず電話やメールなどで休む予定と連絡方法を確認し、必要な書類は後日提出としてもよいか検討しましょう。 提出書類として会葬礼状を求める企業が多いですが、近年増えている家族葬や直葬では会葬礼状が発行されないことも珍しくありません。葬儀の案内状(訃報案内)、葬儀社の施行証明書・領収書、死亡診断書のコピーなど、代替となる確認方法をあらかじめ定めておくと現場の混乱を防げます。 忌引き休暇中の給与は支払う必要がある? 有給か無給かは規程を確認する 忌引き休暇を有給にするか無給にするかについて、法律上の一律の義務はありません。会社が有給の特別休暇として定めているなら、規定に従って給与を支払います。無給と定めている場合には、その定めと労働契約の内容を確認して処理します。 「特別休暇だから当然に有給」「欠勤と同じだから必ず無給」という理解は、どちらも正確ではありません。就業規則の休暇条項だけでなく、賃金規程に別の定めがないかも確認してください。 月給者・時給者の給与計算に注意 月給制では、忌引き休暇を無給とする場合の控除方法が問題になります。月給に何が含まれるか、欠勤控除の計算式はどうなっているかを確認し、恣意的な控除を避ける必要があります。 時給制の社員についても、特別休暇の対象者に含まれるか、有給の場合の支払額をどう定めているかが重要です。正社員とパートタイマーで制度に差を設ける場合には、職務内容や雇用管理の実態などを踏まえ、不合理な待遇差にならないか検討します。 就業規則に忌引き休暇の規定がない場合 まず今回の申請をどう扱うか決める 忌引き休暇の制度がない会社では、法律上当然に特別休暇を付与する義務が生じるわけではありません。ただし、過去に同じ事情で有給の休暇を認めていた場合などは、従来の運用や社員への説明も確認する必要があります。 今回の申請については、年次有給休暇の利用希望があるか、欠勤として扱うか、会社が特例として休暇を認めるかを整理します。特例対応をするなら、対象日、給与の扱い、今後も同様の対応を約束するものかなどを、誤解のないよう伝えましょう。 今後に備えて規程を整備する 忌引き休暇を制度化する場合は、対象親族、日数、起算日、休日の算入方法、有給・無給、申請方法、遠方移動時の取扱いなどを具体的に定めます。規定を作るだけでなく、給与計算担当者が同じ基準で処理できるようにすることが重要です。 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が必要で、変更時も所定の手続きが必要です。10人未満でも、休暇のルールを文書化して周知することには意味があります。既存制度を不利益に変更する場合は、単なる社内通知だけで足りるとは限らず、労働契約法上の問題も検討しなければなりません。 判断が分かれる場面と会社の対応例 従業員8人の会社で、入社2年目の社員から「祖母が亡くなり、遠方で葬儀があるため3日休みたい」と申し出がありました。就業規則には年次有給休暇の記載はありますが、忌引き休暇の定めはありません。 この場合、会社が最初に行うのは、休む必要がある日程と社員の希望を確認することです。社員が年次有給休暇を希望するなら、その申請として扱うことを検討します。会社独自の特別休暇を設けていないことだけを理由に、年休の請求まで拒否することはできません。 一方、会社が今回に限り特別に有給の休暇を認めるなら、その条件を明確にし、他の社員への今後の対応も見据えて制度化の要否を検討します。過去の取扱いと異なる判断をする場合は、理由を説明できるようにしておきましょう。 労務相談が役立つ場面と準備しておきたい資料 単発の申請で、規程が明確なら社内で処理できることもあります。しかし、休暇日数の数え方が曖昧、有給・無給の定めが食い違う、正社員とパートの扱いが異なる、過去の運用と今回の判断が一致しない、といった場合には、制度全体の確認が有用です。 相談前には、就業規則と賃金規程、雇用契約書、今回の申請内容、過去の慶弔休暇の取扱記録、給与計算方法を整理しておくと、論点を具体的に検討できます。 城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務全般の相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。忌引き休暇の個別対応だけでなく、社員に説明しやすく、給与計算でも迷わない休暇制度に整えたい場合は、現行規程と運用状況をもとに相談することができます。
- 人事・労働管理