士業コラム
社員が裁判員に選ばれたら?会社が確認したい休暇と給与の対応

社員が裁判員に選ばれたら?会社が確認したい休暇と給与の対応

社員から「裁判員候補者として裁判所に呼び出されました。仕事を休めますか」と相談されたとき、会社はどう対応すればよいのでしょうか。人員に余裕のない中小企業では、急な欠員に困ることもあります。一方、裁判員としての職務に必要な時間は法律で保障されており、会社の都合だけで出席を断らせることはできません。

また、休暇を認めることと、その時間の給与を支払うことは別の問題です。この記事では、通知を受けた段階から裁判終了までの確認事項、賃金や勤怠の扱い、就業規則を整える際のポイントを解説します。

裁判員のための休暇は会社が認める必要がある

裁判員候補者の段階でも対応が必要

労働基準法第7条は、労働者が公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合、使用者は原則として拒めないと定めています。裁判員や補充裁判員だけでなく、裁判員候補者として選任手続に出席する場合も対象です。

会社は「繁忙期だから有給休暇を使ってほしい」「代わりがいないので裁判所には行かないでほしい」と一方的に決めることは避けなければなりません。法律上、職務の執行に妨げがない限り請求された時刻を変更できる規定はありますが、裁判所が指定する出席日時を会社の判断で自由に動かせるわけではありません。

なお、裁判員候補者名簿への記載通知が届いたことと、実際に裁判所へ出頭する呼出しを受けたことは異なります。最初の通知だけで直ちに何日も休む必要が生じるとは限りません。会社は通知の種類と予定を落ち着いて確認しましょう。

辞退を会社が強要することはできない

裁判員制度には一定の辞退事由がありますが、単に会社が忙しいという理由で必ず辞退できるわけではありません。従業員が辞退について相談してきた場合は、業務への影響を説明し、必要な事情を本人が裁判所に伝える方法を確認することは考えられます。ただし、参加する意思がある社員に辞退を強要してはいけません。

裁判員としての休暇取得や候補者であることなどを理由とする解雇その他の不利益取扱いも、裁判員法第100条で禁止されています。欠勤を理由に懲戒処分を検討したり、評価を不当に下げたりする対応には注意が必要です。

休暇中の給与は有給と無給のどちらにするか

休暇の保障と賃金支払いは別の問題

裁判員のために必要な休みを認める義務があっても、その時間を必ず有給にする法律上の義務があるわけではありません。特別有給休暇とするか、無給の特別休暇とするかは、会社の就業規則や労働契約の定めを確認して判断します。

例えば、既に就業規則で「公民権行使・公の職務に必要な時間は有給とする」と定めている場合、裁判員の出席もその対象となるかを確認する必要があります。規定がないからといって、担当者の判断だけで毎回異なる取扱いにすると、不公平感や賃金計算の混乱が生じかねません。

年次有給休暇は本人の請求に基づいて取得する制度です。会社が裁判員の出席日を一方的に年休として処理するのではなく、裁判員休暇としての取扱いを明確にすることが望まれます。

裁判所の日当と会社の給与を混同しない

裁判員等には裁判所から日当や旅費などが支給される場合があります。しかし、日当は会社が支払う賃金ではありません。会社が特別有給休暇を設けたからといって、社員が受け取った日当を当然に会社へ納付させたり、給与から無条件に差し引いたりできるわけではありません。

法務省の説明でも、日当の会社への納付によって社員に実質的な不利益が生じる規定や、有給休暇の給与から日当を差し引く取扱いには問題が生じ得るとされています。日当との調整を検討する場合は、制度設計と賃金支払いの根拠を慎重に確認する必要があります。

社員から通知を受けたときの確認手順

まず通知の種類と必要な日程を確認する

最初に、候補者名簿への記載通知なのか、選任手続の呼出しなのか、裁判員等への選任が決まったのかを確認します。社員には、裁判所から案内された出席日、見込まれる日数、今後の日程変更の可能性を、分かる範囲で共有してもらいましょう。

ただし、裁判員等を特定する情報には公表制限があります。休暇手続のために上司や人事担当者へ知らせることは差し支えありませんが、社内掲示やSNSなどで本人の氏名と裁判員である事実を不特定多数に公開しないよう、情報共有の範囲を限定してください。

勤怠区分と給与計算を決める

次に、就業規則、特別休暇規程、賃金規程を確認します。休暇が有給か無給か、半日単位・時間単位での処理が可能か、月給者の控除計算をどうするかを整理します。規定が不明確な場合は、今回の社員だけに口頭で説明して終わらせず、今後も同じ判断ができるように記録を残すことが重要です。

年次有給休暇の出勤率計算にも注意が必要です。裁判員等の職務のために就労しなかった日は、法律上当然に出勤したものとみなす日ではありませんが、原則として8割出勤率の計算に用いる全労働日から除外して扱うべきものとされています。会社が社員に有利に出勤扱いとすることも可能です。

業務の引継ぎは本人に過度な負担をかけない

出席予定が分かったら、担当業務の優先順位を見直し、代替担当者を決めます。特定の社員しか処理できない業務は、期限や取引先への連絡を早めに整理しておくと安心です。

一方、裁判員として休む分の仕事をすべて前後の日に詰め込んだり、長時間労働で埋め合わせることを当然としたりするのは適切ではありません。引継ぎのために実際に時間外労働が発生する場合は、通常の労働時間管理と割増賃金のルールも守る必要があります。

就業規則に裁判員休暇を設ける際の注意点

申請方法と対象者を明確にする

今後に備えるなら、裁判員、補充裁判員、裁判員候補者を対象とした休暇規定を検討しましょう。厚生労働省のモデル就業規則にも裁判員等のための休暇の規定例があります。

規定には、対象となる職務、必要な日数または時間、申出の方法、給与の有無、予定が変わった場合の連絡方法などを盛り込むと運用しやすくなります。裁判所からの通知書類を確認する場合も、必要な部分だけを確認し、個人情報を過剰に収集しないことが大切です。

制度変更時は既存の労働条件を確認する

新たに有給の裁判員休暇を設けることと、従来有給だった公の職務の休暇を無給に変更することでは、検討すべき点が異なります。後者は労働条件の不利益変更となる可能性があるため、就業規則の変更手続だけでなく、労働契約との関係や変更の合理性を確認する必要があります。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・変更時に所轄労働基準監督署への届出等が必要です。10人未満でも、休暇や賃金の扱いを文書化し、従業員に周知しておくことが望まれます。

具体的な対応例と専門家に相談したい場面

例えば、従業員8人の会社で、営業担当者から「来月、裁判員候補者の選任手続に行くため休みたい」と申し出があったとします。

会社はまず出席予定を確認し、必要な時間を確保します。次に休暇規程を調べ、給与の扱いを本人へ説明します。そのうえで、顧客対応の代理担当を決め、当日の勤怠処理を記録します。選任された場合には追加の出席が必要になる可能性もあるため、業務分担は変更できる余地を残しておくとよいでしょう。

もし「特別休暇の規定がない」「給与控除の計算方法が決まっていない」「以前の社員と扱いが違う」といった状況なら、個別対応だけでなく制度全体の点検が有用です。従業員の権利を守りながら業務を継続するには、休暇制度と賃金規程を一体で整理する必要があります。

城田社会保険労務士事務所では、中小企業の労務管理や就業規則作成を取り扱っています。裁判員休暇の取扱いに迷う場合は、現在の就業規則・賃金規程、社員からの申出内容、勤務予定表、これまでの特別休暇の運用状況を準備して相談すると、検討すべき点を整理しやすくなります。社員が安心して公の職務に参加でき、会社も混乱なく対応できる仕組みを整えておきましょう。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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