士業コラム
遺産分割協議書は自分で作れる?不動産と預金の手続きで困らないための確認点

遺産分割協議書は自分で作れる?不動産と預金の手続きで困らないための確認点

「自宅は母、預金は子どもが受け取ると決まったけれど、どのように書けばよいのだろう」。相続人の話し合いがまとまっても、書面にする段階で手が止まることがあります。インターネットのひな形を見つけても、そのまま使ってよいか迷う方もいるでしょう。

遺産分割協議書は、ご自身で作成することもできます。ただし、ひな形の空欄を埋める前に、話し合いに必要な人がそろっているか、財産と受け取る人を特定できているか、提出先の手続きに使える内容かを確認することが大切です。

この記事では、遺言書がなく、不動産や預金の分け方を相続人で決める場合を中心に、署名・押印を集める前の確認点と、司法書士に相談したい場面を解説します。

書き始める前に、誰と何を決める書面かを整理します

遺産分割協議書は、相続人などが合意した遺産の分け方を記録する書面です。役所が分け方を決めて発行する証明書ではありません。相続人間の認識をそろえ、不動産の相続登記や預金の払戻しなどで合意内容を示すために使います。

最初に確認するのは、遺言書の有無です。遺言書がある場合は、その内容や対象財産によって、協議が必要な範囲や手続きが変わります。「家族で話し合う予定だから」と遺言書の確認を省かないようにしましょう。

次に、戸籍などで相続人を確認します。普段連絡を取っている家族だけが、法律上の相続人とは限りません。遺産を受け取らないと決めた相続人も、遺産分割協議には原則として参加する必要があります。「自分はいらないと言っているので、署名も不要」とは考えないでください。一方、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された方は、初めから相続人ではなかったものと扱われ、協議には参加しません。

また、「財産を受け取らないという合意」と、家庭裁判所で行う相続放棄は異なります。借金が疑われる場合に、協議書へ「すべて長男が相続する」と書くだけで、自分への債権者からの請求までなくなるとは限りません。負債の扱いや相続放棄を検討する方は、協議書を完成させる前に相談しましょう。遺産の分割や処分が相続放棄の可否に影響する場合もあるため、署名や財産の分配を進める前に方針を確認することが大切です。

不動産と預金は、資料に基づいて具体的に書きます

不動産は「実家」という呼び方や住所だけで済ませません

「芦屋市の自宅を母が相続する」という表現だけでは、どの土地・建物を指すのか、登記手続きで確認できないことがあります。住居表示と登記上の地番は異なる場合があるため、登記事項証明書と照らし合わせて対象を特定します。

土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積などが確認事項です。マンションなどの区分建物は、一棟の建物と専有部分の表示に加え、敷地権の有無や内容も確認するため、一戸建て用のひな形をそのまま使わないようにします。

自宅の敷地が複数の土地に分かれている、私道の持分がある、土地と建物で所有者が違うといった場合もあります。固定資産税の通知書は調査の手掛かりになりますが、それだけで対象の不動産に漏れがないとは判断できません。

亡くなった父が土地の2分の1だけを所有していたなら、相続の対象は原則としてその持分です。母が既に持っている残りの持分まで、父の遺産として記載しないように注意します。

預金は、口座の特定と受取方法を分けて考えます

預金は、金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号などを通帳や残高証明書と照合します。「父の預金は子ども2人で半分ずつ」とだけ書くより、対象と取得割合を明確にすることで、手続きや分配の際の行き違いを減らせます。

口座残高は、利息や入出金によって変わることがあります。特定の日の残高だけを記載した場合に、その後の利息などをどう扱うかが不明確にならないかも確認しましょう。

さらに、銀行から各相続人へ直接振り込んでもらうのか、代表者が受け取って分配するのかは、金融機関の取扱いも関係します。代表者が手続きをすることと、その代表者が預金をすべて取得することは別です。代表者が受け取る場合は、各相続人への分配額や割合、分配の時期、振込手数料などの負担も決めておくと、行き違いを防ぎやすくなります。家族の意図と書面の内容が一致しているかを確かめます。

当事務所では、相続登記に加え、預貯金口座の解約や有価証券の名義変更に関する支援も取り扱っています。不動産と銀行の手続きを予定している場合は、双方の資料をまとめて確認することで、協議書に記載する財産と、その後の作業を整理しやすくなります。

ひな形では決められない条件も、署名前に確認します

例えば、相続人が母と成人の子ども2人で、自宅を母、預金を子どもが2分の1ずつ取得することで合意したとします。これは説明のための架空の例です。

この場合、自宅の土地・建物を特定するだけでなく、私道の持分が含まれるか、対象の預金はどの口座かを確かめます。後日、別の口座が見つかったときに改めて協議するのか、特定の人が取得するのかも、必要に応じて検討します。

「後から見つかった財産はすべて母が取得する」という条項は、書き漏れへの備えにはなりますが、将来どのような財産が見つかっても、その取扱いでよいかを全員が理解して合意する必要があります。ひな形にあるからといって、説明せずに残さないようにしましょう。

また、自宅を取得する人が、ほかの相続人に金銭を支払う「代償分割」を選ぶ場合は、金額だけでなく支払期限や方法、支払資金を用意できるかも確認事項です。不動産を売って代金を分ける場合には、誰が売却手続きを行い、費用を差し引いた残額をどう分けるかなども整理します。

こうした条件がある場合は、簡単なひな形に無理に当てはめず、合意した内容を実行できる書面になっているか、専門家に確認することが望まれます。税金の扱いが分け方に影響する場合は、署名前に税理士にも確認しましょう。

署名・押印と添付書類は、提出先に合わせて整えます

協議書の本文をパソコンで作成することは可能です。亡くなった方の氏名・死亡日なども記載し、誰の相続についての合意なのかを明確にします。合意内容を全員で確認したうえで、相続登記に使う一般的な協議書では、協議に参加した相続人全員が住所・氏名を記載して実印を押し、必要な印鑑証明書を添付する形で準備します。氏名の記載は、自署のほか記名による方法もあります。住所や氏名が証明書と食い違っていないかも点検してください。

相続登記に添付する遺産分割協議書の印鑑証明書には、作成後3か月以内という制限はありません。一方、金融機関では発行時期の条件を設けている場合があります。「登記に使えたから銀行でも同じ」と判断せず、提出先ごとに確認します。

遠方の相続人がいる場合も、全員が同じ場所へ集まることだけが方法ではありません。同じ内容の書面を確認し、郵送で署名・押印を集める方法も考えられます。ただし、途中で文章を修正すると、人によって確認した内容が変わってしまうため、最終稿をそろえてから進めましょう。原本を何通作成するか、誰が保管するかも決めておくと、その後の手続きが進めやすくなります。

複数ページになる場合は、ページのつながりを明確にする契印なども含め、提出先に適した形を確認します。署名後に一部の人の判断で本文を書き足したり、財産の記載を変更したりすることは避けてください。訂正が必要な場合も、関係者全員の合意を確認し、提出先に適した方法で修正します。

なお、銀行の相続手続きでは、遺産分割協議書を別途作成せず、銀行所定の書類で対応できる場合もあります。協議書がすべての相続で必須というわけではなく、予定している手続きから必要性を判断することが大切です。

書面の作成を急ぐより、相談を先にしたい場面があります

相続人と財産が明確で、全員が分け方を理解して合意し、提出先の案内も確認できている場合は、ご自身で作成して手続きを進めることも可能です。

一方、相続人に未成年者や判断能力に不安のある方がいる、連絡の取れない方がいる、相続人の1人が手続きの途中で亡くなった場合などは、通常の署名・押印だけでは進められないことがあります。例えば、親と未成年の子が共同相続人として遺産分割協議をするなど、利益が相反する場合には、家庭裁判所で特別代理人を選任する手続きが必要です。

分け方について争いがある場合は、弁護士への相談を検討します。司法書士に書類作成を依頼すれば、相続人間の対立について代理交渉まで任せられるというわけではありません。当事務所では、必要に応じて弁護士や税理士をご紹介することも可能です。

相談時は、作成途中の協議書、登記事項証明書、通帳、取得済みの戸籍、家族関係のメモなどを、手元にある範囲で用意してください。「何を決めたか」と「まだ決まっていないこと」を分けて伝えると、確認が必要な点を整理できます。

当事務所では、ご事情を伺い、依頼内容と見積りをご確認いただいてから手続きを進めます。ご自身で遺産分割協議書を作成してから登記などを依頼しても、必ずしも費用が安くなるとは限りません。専門家は相続人の範囲や合意内容、手続きに使える記載かを確認する必要があり、依頼先や内容によっては、その確認費用が協議書の作成費用と同程度になることもあります。

協議書の作成だけでなく、戸籍収集や名義変更まで依頼したい場合も、希望する範囲をお伝えください。不動産以外の財産を含む協議書の作成は、依頼範囲によって別途費用となるため、見積りで確認しましょう。

ご自宅などへの訪問相談にも対応しています。芦屋市や周辺にお住まいで、相続人の合意を書面へまとめる段階で迷っている方は、署名・押印を集める前からご相談いただけます。決まった分け方を正確に残し、その先の手続きへつながる協議書を整えていきましょう。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、うちで法務事務所までお問い合わせください。

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