退職者が貸与品を返さないとき給与は保留できる?中小企業の対応と精算の注意点

「退職した社員からパソコンが返ってこない」「制服や鍵を返すまで、最後の給与を払わなくてもよいのか」。退職時の貸与品の回収は、担当者が少ない中小企業では経営者自身が対応することもある問題です。
会社の物を返してもらう必要があっても、それを理由に、既に働いた分の給与を一方的に保留することはできません。貸与品の返却と給与の支払いをそれぞれ進めることが、問題を広げないための基本です。この記事では、退職日が確定している場合を中心に、返却依頼の進め方と最後の給与を精算する際の注意点を解説します。
貸与品が戻らなくても、給与の支払義務は残ります
労働基準法第24条は、賃金を原則として全額支払うことを定めています。会社が貸したパソコン、携帯電話、制服、鍵などが未返却でも、既に発生している賃金の支払いを、返却のための条件にすることは避けなければなりません。
例えば、最後の給与が20万円で、未返却のパソコンを会社が10万円と評価した場合でも、その10万円を当然に差し引けるわけではありません。「返却しないなら給与から引く」と通知しただけで、控除が認められるものでもありません。
税金や社会保険料など、法令に基づく控除は別に確認します。一方、未返却品の代金や損害額を会社が一方的に決めて控除することは、これらの通常の控除とは異なります。就業規則や貸与時の誓約書に記載があることだけを理由に、自由に相殺できると考えないようにしましょう。
本人が「給与から引いてよい」と述べた場合も、金額と根拠に争いがないか、本人の自由な意思に基づくものかなど、慎重な確認が必要です。署名をもらえば必ず有効になるという扱いはせず、判断に迷う場合は控除前に相談してください。
最初の連絡では、返す物と返し方を具体的に伝えます
返却を求める前に、会社の貸与記録と、既に返された物を照合します。パソコン本体だけでなく、充電器、社員証、入館カード、鍵、書類などを確認し、誰が受け取ったかも調べましょう。別の上司に返却済みなのに、未返却として請求してしまうことを防ぎます。
返却依頼は、「貸した物を全部返してください」だけで終えず、品名、管理番号、付属品、返却先、担当者、期限を明示します。退職者が遠方にいる、療養中で来社が難しいなどの事情があれば、郵送や配送も含め、実行できる方法を相談します。
送料をどちらが負担するか、精密機器をどう梱包するかも先に決めると、返却が止まる理由を減らせます。返送伝票を同封する方法や、追跡できる配送方法の利用も検討できます。送料等の負担を会社が当然に本人へ転嫁できるとは限らないため、貸与時の取り決めも確認します。
例えば、「ノートパソコン1台と充電器を、○月○日までに総務担当宛てに返送してください。返送が難しい場合は、○日までにご事情と返却可能日をご連絡ください」と伝える方法があります。期限は、配送に要する日数や本人の事情を踏まえて設定します。
連絡日時、送った内容、本人の回答、配送状況を記録します。窓口を一人にまとめると、経営者と担当者が異なる説明をすることも防げます。返却後は受領日と品物の状態を確認し、未返却の一覧を更新しましょう。
最後の給与は、通常の支払日だけで判断しません
退職者から賃金の支払いを請求された場合、労働基準法第23条により、原則として請求から7日以内に支払う必要があります。「会社は月末締め・翌月25日払いだから」と、通常の給与日まで当然に待ってもらえるわけではありません。
一方、退職したら請求の有無を問わず、すべての給与を必ず7日以内に支払うという意味でもありません。請求がない場合も、通常の支払日を守って精算します。請求が届いたら、受けた日、請求内容、回答した内容を記録し、担当者と支払期限を共有してください。
賃金額に争いがある場合も、異議のない部分は、この7日以内に支払う必要があります。例えば、基本給部分に争いはなく、残業時間の一部だけ確認が必要なら、その確認を理由に給与全体の支払いを止めないようにします。
ここでいう争いは、賃金等そのものに関するものです。パソコンが返ってこないことを理由に、「会社と本人で争いがあるので給与は払わない」と広く捉えることはできません。
給与担当者は、最終出勤日と退職日、勤怠、有給休暇、手当、法定控除を確認します。有給休暇を取得してから退職する場合、最終出勤日より後も雇用が続いていることがあります。貸与品を最後に使った日だけで、給与や保険の処理に用いる退職日を決めないようにしましょう。
当事務所では、給与・賞与計算の代行と、退職に伴う社会保険・労働保険の届出を取り扱っています。返却のやり取りとは別に、給与の確認や各種届出の手続きをご希望の場合は、退職日や支払請求の状況を添えて、ご依頼の範囲についてお気軽にご相談ください。
紛失や破損が判明しても、購入代金をそのまま請求できるとは限りません
本人から「なくした」「壊れている」と連絡があった場合は、いつ、どこで、どのような状況で起きたのかを確認します。貸与時の状態、使用期間、管理方法、本人の説明、会社の指示などを整理し、未返却なのか、紛失・破損なのかを区別します。
業務で使う物が破損したからといって、その購入代金の全額を当然に従業員へ負担させられるわけではありません。本人の責任の有無や程度、会社側の管理状況、実際の損害など、個別の事情を踏まえた判断が必要です。古い機器なのに、新品の購入価格をそのまま損害額とすることにも注意が必要です。
また、労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約を禁止しています。「退職時に制服を返さなければ一律5万円」などの定めは、名目だけで判断せず、内容を確認しなければなりません。
この規定は、実際に生じた損害について、適法な範囲で請求することまで一律に禁止するものではありません。ただし、損害賠償を請求できるかという問題と、それを給与から控除できるかという問題は別です。本人が責任や金額を争っている場合は、給与計算の中で解決しようとせず、弁護士への相談を検討しましょう。
返却を待つ間も、情報と鍵の管理を進めましょう
パソコンや携帯電話の未返却では、物品の回収に加えて、会社の情報を守る対応も必要です。退職日と業務上の必要性を踏まえ、会社が管理するアカウントや入館権限を確認し、利用停止や権限変更を進めます。退職前で業務が残っている場合は、引継ぎに支障が出ない時期も考慮します。
ただし、会社の機器だからといって、本人の私的なアカウントやデータを無制限に閲覧・削除してよいわけではありません。遠隔操作や初期化は、会社の規程、管理権限、データ保全への影響を確認し、必要に応じてシステム管理者や専門家へ相談してください。
鍵の未返却では、返却を待つだけで足りるか、施設の管理者と検討します。顧客情報や個人情報の持出しが疑われる場合も、単なる貸与品の回収として処理せず、社内の責任者へ速やかに共有します。返却の連絡と並行して、会社側で行える管理を進めることが大切です。
給与を止める前に、返却記録と社内ルールを確認しましょう
返却対象が明確で、本人と連絡が取れ、返送の予定も決まっている場合は、社内で回収と給与精算を進められることもあります。一方、返却と給与支払いを交換条件にしたい、弁償額を控除したい、本人と責任や金額が食い違う場合は、処理を決める前に相談しましょう。
相談時には、貸与品の一覧と受領書、就業規則・賃金規程、雇用契約書、退職日が分かる資料、勤怠記録、本人との連絡履歴を用意します。給与の支払請求を受けている場合は、その日付も伝えてください。資料がそろわないときも、分かっていることと不明な点を分けて共有できます。
当事務所は、人事・労務全般の相談と、就業規則の作成・変更に対応し、労務相談のみの契約も可能です。給与計算は社内で行いながら、退職時の説明や規程の運用を相談したい場合も、必要な支援をご提供できます。具体的な支援範囲と費用は、ご相談ください。
豊島区の中小企業で貸与品の未返却に困っている経営者の方は、まず、返してもらう物と給与の支払期限を別々に整理してみましょう。今回の回収を進めるとともに、貸与時の記録、退職時の返却案内、給与担当者との連絡方法を整えることが、次の退職時の行き違いを減らすことにつながります。
本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。
その他の記事
-

残業時間の15分未満切り捨てはできる?中小企業の勤怠集計と見直しの進め方
「残業は15分単位で計算している」「給与ソフトの設定を以前から変えていない」日々の勤怠集計で、このような運用を続けている会社は、実際に働いた時間が給与へ反映されているかを確認する必要があります。 1日ごとに15分未満の労働時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない扱いは認められません。一方、月の合計時間については、限定された端数処理の取扱いがあります。この記事では、両者の違いと、中小企業が勤怠記録から給与計算までを点検する方法を解説します。 毎日の切り捨ては、短い時間でも賃金の不足につながります 例えば、午後6時が終業時刻の社員について、会社の指示で午後6時12分まで仕事をしたのに、給与計算では午後6時退勤として扱っていないでしょうか。この12分が労働時間に当たるなら、「15分に満たない」という理由で除外することはできません。 問題となるのは、紙のタイムカードだけではありません。勤怠システムの「丸め」「端数処理」などの機能で、退勤時刻を15分単位で切り下げたり、始業時刻を切り上げたりすることで、実際に働いた時間が短く集計される場合もあります。 「残業申請は30分以上から」というルールも注意が必要です。申請できる単位を理由に、実際の労働時間を記録・申告できない状態にしてはいけません。短い作業が発生しているなら、その内容と時間を把握し、賃金計算に反映する必要があります。 この考え方は、時給制のパートだけでなく、月給制の社員にも関係します。毎月の給与が定額でも、追加の労働に対する賃金や割増賃金の確認を省けるわけではありません。固定残業代を支給している場合も、切り捨てる前の実際の労働時間を把握し、不足額の有無を確かめます。 月の合計に認められる取扱いを、日々の集計へ広げないようにします 行政上、1か月の時間外労働、休日労働、深夜業のそれぞれの合計時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる取扱いは、賃金不払いの法違反として扱わないとされています。 ここで重要なのは、日々の時間を正しく把握して合計した後の、限定された取扱いであることです。毎日の残業を15分ずつ丸めてから月の合計を出す方法や、月合計でも端数を常に切り捨てる方法まで認めるものではありません。 例えば、1か月の法定時間外労働の合計が20時間20分だった場合を考えます。20時間40分なら21時間、20時間30分でも21時間に切り上げます。切り捨てだけを採用することはできません。 また、時間外労働・休日労働・深夜業を一括して丸めるのではなく、それぞれの合計について扱います。通常の勤務時間を含む月の総労働時間を、同じ方法で自由に切り捨ててよいという意味でもありません。 上記は一つの方法で、この取扱いを必ず採用する必要はありません。日々の労働時間を分単位で集計し、そのまま賃金計算に反映する運用もできます。既に実時間で支払っている会社が端数処理を導入する場合は、従来の労働条件や規程との関係も確認し、一方的に支給額を減らす変更を進めないようにしましょう。 打刻時刻と労働時間の違いを、具体的な作業から確認します 端数処理をやめる際も、「打刻されている時間のすべてが労働時間」と機械的に決めるわけではありません。労働時間は、会社の指揮命令下に置かれている時間かどうかで判断します。本人の都合で早く出社し、自由に過ごしている時間などは、直ちに労働時間になるとは限りません。 一方、会社が始業前の朝礼や清掃を義務付けている場合や、職場で所定の服装への着替えを求め、業務に必要な準備をさせている場合は、その時間も確認が必要です。会社が定めた始業時刻より前だからという理由で、当然に除外することはできません。 終業後についても、指示された片付けや業務報告を、打刻後に行わせていないかを確かめます。会社の明確な指示がなくても、仕事量や納期、上司の認識などから黙示の指示があったと評価される場合があります。 記録に差があるときは、本人と上司に作業内容を確認し、必要に応じてパソコンの使用記録や業務連絡と照合します。私用の滞在時間を区別することと、業務時間を切り捨てることは異なります。判断の理由と修正内容を残すことで、翌月以降も同じ基準で確認しやすくなります。 当事務所では、残業手当の管理方法を含む人事・労務全般の相談に対応しています。日々の記録をどこまで労働時間として扱うか迷う場合は、システムの設定だけで結論を出さず、実際に求めている作業を相談事項として整理してください。 元の記録から給与明細まで、数字が変わる箇所をたどります 点検するときは、元の打刻記録、勤怠システムの集計結果、給与ソフトへ渡すデータ、給与明細を順に照合します。打刻は分単位でも、途中の表計算や給与ソフトで15分単位に変更されていることがあります。 例えば、通常の労働時間制で、1日8時間勤務を終えた後に、会社の指示で12分ずつ、月10日残業したとします。ほかに残業がなく、すべて法定時間外労働に当たるなら、合計は120分、つまり2時間です。毎日15分未満を切り捨てると、給与計算上はゼロになってしまいます。 割増賃金の計算の基礎となる時間単価を1,600円、割増率を25%とすると、この2時間に対する賃金は4,000円です。これは、深夜労働などがなく、固定残業代の支払いもない例であり、実際の計算では各社の賃金条件を確認してください。 この例のように、日々の端数を月末に合計すれば、まとまった時間になることがあります。「1回では数分だから」という感覚ではなく、切り捨て前後の数字を比べることが必要です。 また、集計した時間を小数へ換算する場合も確認してください。2時間30分は2.5時間であり、2.30時間ではありません。勤怠側が「時・分」、給与側が「小数時間」で受け取る仕組みなら、受渡しの形式が合っているかを確かめます。 当事務所では、給与・賞与計算の代行も取り扱っています。集計と給与計算の担当者が異なる会社では、どの資料を誰が確認するか、修正した時間をどのように給与へ反映するかも、依頼範囲を検討する際の確認点になります。 設定変更と過去の不足分の確認を、並行して進めましょう 問題に気づいたら、まず元の打刻記録、集計表、設定内容、給与明細などを保存します。設定を変更して以前の処理が分からなくなる前に、いつから、誰に、どの単位で端数処理をしていたかを整理してください。 そのうえで、今後の集計方法を見直すとともに、過去に賃金の不足が生じていないかを確認します。「来月から直す」と決めても、既に発生した不足分がなくなるわけではありません。対象期間や再計算の方法、追加支払いについて、記録と個別事情に即した検討が必要です。 従業員には、今後の記録方法、申請の手順、修正が必要な場合の窓口を説明します。過去分の確認が続いている段階では、確認済みのことと調査中のことを分けて伝え、根拠がないまま「未払いはない」と断定しないことが大切です。 勤務実態が明確で、元の記録と賃金条件を基に再計算できる場合は、社内で点検を進められることもあります。一方、長期間同じ設定を使っていた、元データが残っていない、従業員から請求を受けた、就業規則と実際の処理が異なる場合は、回答や精算方法を決める前に相談しましょう。請求をめぐって紛争がある場合は、内容に応じて弁護士への相談も検討します。 相談時には、就業規則・賃金規程、雇用契約書、元の勤怠記録、端数処理の設定画面、集計表、給与明細を用意します。記録が不足している場合も、不明な範囲をそのまま共有してください。 当事務所は、労務相談のみの契約や、就業規則の作成・変更に対応しています。給与計算を自社で続けながら、集計方法や規程の扱いを相談することもできます。必要な支援と費用については、依頼内容に応じてご相談ください。 残業時間の端数処理を見直す出発点は、元の記録が給与へ正しく届いているかを確かめることです。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、直近の給与1か月分を取り出し、日々の集計と月末の処理を分けて確認してみましょう。
- 人事・労働管理
-

パートの有給休暇は何日?中小企業が確認したい付与日数と管理の注意点
「週3日のパートにも有給休暇が必要なのか」「勤務日数を減らしたら、残っている有給休暇も減らしてよいのか」。短時間で働く従業員がいる会社では、正社員と同じ管理方法でよいか迷うことがあります。 パートやアルバイトにも、一定の要件を満たせば年次有給休暇が発生します。日数を決める際は、雇用形態の名称ではなく、継続勤務期間と所定労働日数・時間を確認します。この記事では、会社が付与日数を判断し、勤務表や給与処理へ反映する際の注意点を解説します。 まず、入社日と出勤率を確認します 法律上、最初の年次有給休暇は、雇入れの日から6か月継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した場合に発生します。その後も、原則として1年ごとに出勤率などの要件を確認して付与します。会社が法律より有利な制度を設けている場合は、その定めも確認してください。 「週に数日しか来ない」「時給に有給休暇分を含めている」という理由で、付与の対象から外すことはできません。また、本人から申請がなくても、要件を満たせば権利は発生します。希望を出された時点から日数を計算し始めるのではなく、会社が付与日を把握しておく必要があります。 出勤率を計算する際の全労働日は、暦の日数ではなく、原則として働くことになっていた日です。週3日勤務の人について、正社員の勤務日数を分母にして出勤率を下げないようにしましょう。 さらに、年次有給休暇を取った日や、法律に基づく産前産後休業、育児休業・介護休業、業務上のけがや病気による療養のための休業期間は、出勤したものとして取り扱います。会社都合の休業日など、全労働日から除く日もあるため、打刻がない日をすべて欠勤として計算しないことが大切です。 契約を更新しながら働いている場合も、更新のたびに勤続期間がゼロになるわけではありません。雇用の実態が継続しているかを確認します。契約書だけでなく、入社時からの勤務記録を残しておくと判断しやすくなります。 付与日数は、週の勤務日数と時間を組み合わせて判断します 週所定労働時間が30時間未満で、週所定労働日数が4日以下の人には、原則として所定労働日数に応じた「比例付与」が適用されます。所定労働日数・時間とは、契約上、通常働くことになっている日数・時間です。 例えば、入社から6か月が経過し、出勤率の要件を満たす場合、週4日勤務なら7日、週3日なら5日、週2日なら3日、週1日なら1日が法定の付与日数です。いずれも週所定労働時間が30時間未満であることを前提とします。 一方、週5日以上勤務する人や、週所定労働時間が30時間以上の人には、通常の労働者と同じ日数を付与します。例えば、1日4時間・週5日勤務であれば、週20時間でも、最初の付与日数は原則10日です。「短時間だから全員5日」といった扱いはできません。 勤続期間が長くなると、付与日数も変わります。週3日・週30時間未満の勤務を続けている場合、法定日数は入社6か月で5日、1年6か月で6日、2年6か月で6日、3年6か月で8日となります。初年度の日数を毎年そのまま使わず、付与の都度、該当する区分を照合してください。 週以外の期間で所定労働日数を決めている場合は、年間の所定労働日数を基に判断します。月ごとに勤務日数が異なり、今後1年間の日数が確定していない場合も、「決まっていないから付与できない」とは扱えません。契約内容と過去の実績から、どの基準で算定するかを確認する必要があります。 よくあるのが、週のシフトが固定しておらず、週によって出勤日数が異なる場合、付与しなくてもよいという判断をしてしまう場合がありますが、年間の所定労働日数をしっかり確認して付与が必要です。 勤務日数を変更しても、付与済みの日数は減らしません 付与日数は、原則として、有給休暇を付与する日である「基準日」の所定労働日数・時間と継続勤務期間によって判断します。その後に勤務日数が変わったからといって、既に付与した日数を減らすことはできません。 例えば、週5日勤務の従業員に10日を付与し、未取得のまま、その後に週3日勤務へ変更した場合を考えます。会社が「週3日の区分は5日なので、残りも5日にする」と処理するのは適切ではありません。付与済みの10日は、そのまま管理します。 次の基準日には、その時点の勤務条件と通算した勤続期間を基に、新たな付与日数を判断します。反対に、週3日から週5日に増えた場合も、法律上の追加付与が変更日に当然に発生するわけではなく、原則として次の基準日に反映します。会社独自の上乗せ制度があれば、その内容も確認します。 このとき、過去の取得分や時効による消滅も別に管理します。有給休暇は原則として発生から2年で時効により消滅するため、前年からの繰越分と新たな付与分を区別しておくことが必要です。 当事務所では、有給休暇の管理方法に関する相談と、就業規則の作成・変更を取り扱っています。勤務条件を変更する際は、契約書の修正に加えて、次の付与日と日数、残日数の管理方法も相談事項として整理すると、従業員への説明の行き違いを防ぎやすくなります。 「年5日の取得義務」があるかは、その年の付与日数で確認します 法定の年次有給休暇が年10日以上付与される人には、基準日から1年以内に5日取得させる義務があります。パートでも対象になるため、正社員だけを管理していては不足します。 例えば、週4日・週30時間未満で働く人は、勤続3年6か月で法定の付与日数が10日になります。出勤率などの要件を満たしてこの日数が付与される場合、年5日の取得義務の対象です。 一方、前年の繰越分と今年の付与分を合計した残日数が10日以上あっても、今年の法定付与日数が10日未満なら、その合計だけで取得義務の対象になるわけではありません。「残日数が10日以上」と「その年に10日以上付与」を区別しましょう。 本人の申請や計画的付与によって取得した日数は、5日から差し引けます。既に5日以上取得していれば、会社による時季指定は不要です。不足分について会社が取得日を指定する際は、本人の意見を聴き、その意見を尊重するよう努める必要があります。 なお、年5日の取得義務の対象外であっても、本人が有給休暇を取れないという意味ではありません。会社による取得確保の義務と、本人が持つ休暇の権利は別の問題です。 よくある相談の中で、会社が一斉休業として計画的付与をする際に、有給休暇がない人や足りない人の扱いをどのようにするかということがあります。方法としてはいくつかありますので、状況に応じて対応しましょう。 勤務表と給与計算にも、有給休暇を正しく反映します 有給休暇は、もともと働く義務がある日に取得するものです。例えば、月・水・金が勤務日の人が水曜日に取得した場合は、1日分として扱います。勤務のない火曜日を有給休暇にして残日数を減らすことはできません。 1日4時間勤務の人が、その勤務日を丸1日休む場合も、原則として1日分の有給休暇を使います。「正社員の半分の時間だから0.5日」とは数えません。半日単位や時間単位の取得制度を使う場合は、会社の制度と必要な労使協定などを別途確認します。 取得日の賃金には、平均賃金、所定労働時間働いた場合の通常の賃金など、法律上の計算方法があります。どの方法を採用しているかを就業規則等で確認し、その都度、会社に都合のよい方法を選ばないようにします。 例えば、通常の賃金を支払う方法を採用し、時給1,300円・その日の所定労働時間が4時間なら、基本となる額は5,200円です。手当がある場合や日によって勤務時間が違う場合は、その条件も確かめます。 従業員ごとに、基準日、付与日数、取得日、取得日数、残日数を記録し、勤務表と給与処理の内容を照合します。申請を受ける上司と給与担当者が異なる会社では、承認後の連絡方法も決めておくと、反映漏れを減らせます。 日数や残高に疑問があれば、記録をそろえて相談しましょう 勤務条件と付与日が明確で、公的な付与日数表に沿って管理できる場合は、社内で対応することも可能です。一方、これまでパートに付与していなかった、契約上の日数と実際の勤務が違う、勤務日数の変更時に残高を減らしたといった場合は、現在の残日数を確定する前に確認が必要です。 相談時には、入社日が分かる資料、雇用契約書・労働条件通知書、契約変更の履歴、就業規則、勤務表、勤怠記録、有給休暇の付与・取得記録を用意します。過去の記録が不十分な場合も、分かっている事実と不明な点を分けて伝えてください。後から帳簿だけを整え、実際には休んでいない日を取得済みにすることは避けましょう。 当事務所では、労務相談のみの契約にも対応し、給与・賞与計算の代行も取り扱っています。給与計算は社内で続けながら、付与日数や規程の運用について相談する方法もあります。 パートの有給休暇は、入社日、出勤率、基準日の勤務条件を順に確認することで、管理の土台を整えられます。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、従業員から質問された機会に、契約書と休暇の記録が合っているかを確かめてみましょう。 判断に迷う点ほど、事前の整理と相談が大切です。お互いの『共通の認識』を作っておくことが、ブレない安心の労務管理につながります。
- 人事・労働管理
-

休日出勤は代休で相殺できる?中小企業が確認したい振替休日と給与の扱い
「日曜日に出勤してもらったので、来週の平日に休んでもらう」「同じ日数だけ休ませれば、追加の給与は要らないはず」。休日出勤への対応で、このように考えていないでしょうか。 別の日に休みを設けても、働いた日の割増賃金が不要になるとは限りません。判断の出発点は、休日と勤務日を事前に入れ替えたのか、休日に働いた後で休みを与えたのかという違いです。さらに、出勤した日が法定休日かどうか、1週間の労働時間が何時間になるかも確認します。 この記事では、原則1日8時間・週40時間の労働時間制で働く社員を中心に、振替休日と代休の違い、給与計算と社内運用の注意点を解説します。 最初に、出勤した休日と変更の経緯を確認します 会社のカレンダーで休日になっている日が、すべて労働基準法上の「法定休日」とは限りません。法定休日は、原則として毎週少なくとも1回、または適法に採用した4週4日の制度によって確保する休日です。会社がそれに加えて設ける休日は、法定休日とは区別します。 例えば、土日を休みとし、日曜日を法定休日と定めている会社では、土曜日に働く場合と日曜日に働く場合で、割増賃金の判断が異なります。「休日出勤だから一律35%増し」「土曜日だから割増なし」とは決められません。就業規則、勤務カレンダー、実際の勤務状況を照合してください。 次に、いつ、誰が、どの日を休みにすると決めたのかを確認します。社内で「振休」と呼んでいても、出勤後に休む日を決めたのであれば、呼び方だけで振替休日になるわけではありません。申請書やメールを確認し、給与担当者にも判断の根拠が伝わるようにします。 振替休日は、出勤前に休日と勤務日を入れ替えます 振替休日は、あらかじめ休日だった日を勤務日に変え、その代わりに別の勤務日を休日にする扱いです。適切に振り替えられていれば、元の休日は勤務日となるため、その日に働いたことだけを理由とする法定休日労働の割増賃金は生じません。 ただし、「いつか暇になったら休んでよい」と伝えるだけでは、振替先の休日を特定したことになりません。就業規則等に振替の根拠を設け、出勤日と振替先の休日を事前に具体的に指定し、本人へ知らせることが必要です。少なくとも前日までの予告を基本とし、規程でより早い期限を定めている場合は、その手順にも従います。 振替後も法定休日を確保しなければなりません。4週4日の制度を用いる場合は、4週間の起算日などの確認が必要です。単に「1か月で4日休めばよい」と扱わず、会社が採用している休日制度に沿って判断してください。 また、1日全体の休日を別日に移すことと、休日に数時間だけ働いた分を別日の早退に充てることは同じではありません。原則として休日は暦日単位で確保するため、時間数だけを合わせて振替扱いにしないよう注意が必要です。 当事務所では、就業規則の作成・変更と、人事・労務全般の相談に対応しています。休日の振替を始めたいときは、規程の文言だけでなく、誰がいつ承認し、給与担当者へどう連絡するかという運用も含めて、相談事項を整理してください。 代休を与えても、休日労働の割増賃金は残ります 代休は、休日に働いたことへの代償として、後から別の労働日を休みにする扱いです。休日労働を行った事実は変わらないため、法定休日に働いた場合は、原則として35%以上の割増賃金が必要です。同じ週に代休を取った場合でも、この点は変わりません。 法定休日以外の休日に働いた場合は、1日8時間や週40時間を超える法定時間外労働に当たるかを確認します。該当する時間には原則25%以上の割増が必要です。月60時間を超える法定時間外労働には50%以上の割増が適用され、中小企業も対象です。深夜に働いた場合は、深夜割増も別に確認します。 代休の日を有給にするか無給にするかは、就業規則や労働契約などの定めによります。会社が有給と定めているのに、通常賃金分を当然に差し引くことはできません。「代休を取ったら常に35%分だけ払えばよい」という理解も避けましょう。 例えば、割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金が1,500円で、法定休日に8時間働いたとします。深夜労働等がなければ、その労働に対する賃金は1,500円×8時間×1.35で16,200円です。後日の代休の賃金をどう扱うかは別に判断し、休ませたことだけで16,200円の支払義務がなくなるわけではありません。 無給の代休を設ける場合も、控除の根拠、計算方法、賃金の算定期間を確認します。給与の締め日をまたぐときに、「来月休む予定だから今月の休日出勤分は払わない」と処理することは避け、各支払期の賃金を適切に精算してください。 事前に振り替えても、週をまたぐと時間外労働になる場合があります 振替休日の手続きを整えていても、時間外労働の割増まで必ず不要になるわけではありません。振替後の勤務について、1日と1週間の実労働時間を確認します。2週間や1か月の合計だけで帳尻を合わせないことが大切です。 例えば、週の起算日を月曜日とし、月曜から金曜まで毎日8時間勤務、土日休み、日曜日を法定休日としている会社を考えます。ある土曜日に8時間働いてもらい、翌週の水曜日を休日にすると、土曜出勤を含む週の実労働時間は48時間です。 この例では、翌週が32時間になっても、前の週の40時間を超えた8時間が消えるわけではありません。通常の労働時間制では、その8時間について時間外労働の割増賃金を検討します。適切な事前の振替であっても、週ごとの労働時間の確認は必要です。 一方、同じ週の水曜日と土曜日を事前に入れ替え、各日8時間、週40時間の勤務に収まり、ほかに時間外・深夜労働もなければ、法定の割増が生じない場合があります。ただし、会社の規程で法定基準を上回る手当を約束している場合は、その定めも確認します。 変形労働時間制やフレックスタイム制、週44時間の特例が適用される事業場などは、同じ計算をそのまま当てはめられません。まず適用される制度と週の起算日を確かめましょう。 出勤を依頼する前に、規程・36協定・給与処理をそろえます 休日出勤を依頼する際は、振替か代休か、出勤日と休む日、予定する労働時間、賃金の扱いを具体的に決めて伝えます。法定時間外労働や法定休日労働をさせる場合は、原則として事前に36協定を締結・届出し、協定と法令の範囲内で運用する必要があります。休みを別に与える予定があっても、この確認は省けません。 勤怠システムでは、「休日出勤」「振替」「代休」の名称だけで自動計算を任せず、設定が規程と合っているかを確認してください。出勤の承認記録、振替の通知日、実際に休んだ日を対応させて残すと、担当者が変わっても経緯を追いやすくなります。 規程と手続きが明確で、勤務時間と給与を正確に計算できる場合は、社内で対応できることもあります。一方、後から振替扱いにしている、休む日が未定のまま積み上がっている、給与の締め日をまたぐ、過去の割増賃金に疑問がある場合は、処理を確定する前に相談してください。 相談時には、就業規則・賃金規程、雇用契約書、36協定、勤務カレンダー、勤怠記録、給与明細、休日出勤や休みの指定が分かる記録を用意しましょう。当事務所では、労務相談のみの契約も可能で、給与・賞与計算の代行も取り扱っています。給与計算を社内で続けながら、休日の運用や賃金の判断について相談することもできます。依頼範囲と費用は個別に確認してください。 休日出勤への対応は、「別の日に休ませたか」だけでは決まりません。事前の振替の有無、休日の種類、週ごとの労働時間、規程上の賃金を順に確かめることが大切です。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、社員への説明と給与処理が食い違わないよう、出勤を依頼する段階から準備を進めましょう。
- 人事・労働管理