士業コラム
固定残業代があっても追加支払いは必要?中小企業が確認したい計算と運用

固定残業代があっても追加支払いは必要?中小企業が確認したい計算と運用

「毎月、固定残業代を払っているので、残業代の精算はしていない」「契約書には20時間分と書いているが、昇給後も同じ金額でよいのか」。固定残業代を取り入れている会社では、こうした疑問が生じることがあります。

固定残業代は、一定の残業代を毎月定額で支払う仕組みです。支払っていれば何時間でも働いてもらえる制度ではなく、実際に必要な割増賃金が支給額を上回れば、差額の支払いが必要です。この記事では、すでに制度を運用している中小企業に向けて、書類と毎月の給与処理を確かめる手順を解説します。

まず、何の対価として支払う手当なのかを確認します

固定残業代では、通常の労働時間に対する賃金と、時間外労働などに対する割増賃金に当たる部分を、明確に区別できることが重要です。「月給に残業代を含む」とだけ伝えている場合は、何円が何時間分の残業代なのか確認しましょう。

例えば、基本給と別に「業務手当」を支給していても、名前だけで固定残業代になるわけではありません。職務への手当なのか、営業成績に応じた報酬なのか、時間外労働の対価なのかを、雇用契約書や賃金規程、採用時の説明などから確認します。

担当者が以前から残業代のつもりで処理していたという事情だけでは、従業員との認識が一致しているとは限りません。通常の賃金と区別できない場合などには、支払済みの手当を残業代として扱えるかが問題となり、追加精算の範囲にも影響します。

最初に、基本給、固定残業代の金額と対象時間、対象となる労働の種類、超過分の支払方法を書き出してください。対象が法定時間外労働だけなのか、深夜労働や法定休日労働も含むのかによって、毎月の照合方法が変わります。「残業代込み」という一言で済ませないことが出発点です。

毎月、実際の割増賃金と固定額を照合します

固定残業代を導入していても、労働時間の把握は必要です。始業・終業時刻や休憩を記録し、法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働などを区分して集計します。固定残業代の対象時間に合わせて勤怠記録を修正したり、超過した時間の申告を止めたりしてはいけません。

確認は、実際の労働時間から必要な割増賃金を計算し、そのうち固定残業代で支払う対象の金額と、支給済みの固定額を比べる順で進めます。不足があれば、その月の給与で差額を支払います。固定残業代の対象外とした深夜労働などの賃金は、別に計算する必要があります。

例えば、計算方法を説明するため、通常の賃金の時間単価を1,600円、固定残業代を法定時間外労働20時間分の40,000円とします。深夜・法定休日労働はなく、月60時間を超える法定時間外労働もない場合、法定時間外労働1時間に対する額は、25%の割増を含めて2,000円です。

この月の法定時間外労働が25時間なら、必要な額は50,000円です。支給する固定残業代40,000円との差額10,000円を追加します。反対に10時間だった月も、時間外労働の有無にかかわらず定額を支払う定めであれば、実績が少ないという理由だけで固定残業代を減らしません。

また、残業の少なかった月の余りを、翌月の不足分に充てる処理はできません。毎月の給与について必要額を確認しましょう。欠勤や休職、入退社月の扱いは、実績が少ない月とは分けて、契約や賃金規程の定めを確認します。

当事務所では、残業手当の管理方法を含む労務相談と、給与・賞与計算の代行を取り扱っています。勤怠の集計と給与計算が別の担当者に分かれている会社も、現在の計算表や給与明細を基に、どの段階で差額を確認しているか整理しておくと相談を進めやすくなります。

昇給後は「20時間分」の金額が足りるか再確認します

導入時には適切に設定していても、基本給などの変更によって、固定額と対象時間の関係が変わることがあります。基本給を上げたときは、固定残業代を据え置いてよいかも確認してください。

先ほどの例で、昇給により通常の賃金の時間単価が1,800円になったとします。25%の割増を含む額は1時間2,250円となり、20時間分は45,000円です。契約上の固定残業代が40,000円のままなら、実際の法定時間外労働が20時間でも、必要額との差は5,000円になります。

このように、「契約書の時間数を超えていないから追加はゼロ」とは判断できません。時間数だけでなく、現在の賃金を基に計算した金額で照合することが大切です。

割増賃金の計算の基礎となる賃金や所定労働時間の確認が必要です。基本給以外の手当も計算の基礎に含まれることがあり、名称だけで算入・除外を決めないようにします。実際の運用で決定します。昇給、手当の新設、勤務時間の変更があったときは、給与設定を一緒に点検しましょう。

例年10月には最低賃金の改定もありますので、最低賃金と割増賃金の時間単価の確認も忘れずにすることが必要です。

求人票・契約書・給与明細の説明をそろえます

求人票では固定残業代があると説明しているのに、契約書には総額しかなく、給与明細では別の手当名になっていると、従業員が支払いの内容を理解しにくくなります。会社側も、どの条件で合意したかを確認しにくくなるため、書類を並べて照合することが有効です。

募集時には、固定残業代を除いた基本給、固定残業代の時間数・金額等の計算方法、超過分を追加支給する旨を明確に示します。採用時の労働条件通知書・雇用契約書や賃金規程についても、対象となる労働と精算方法が明瞭になっているか確かめます。

給与明細でも、基本給と固定残業代、追加で支払った残業代を区別して示すと、支払いの根拠を説明しやすくなります。ただし、明細の欄を分けるだけで、契約内容や計算上の問題まで解決するわけではありません。

見直しの際は、過去の契約書や給与記録を残したうえで、変更内容と適用時期を整理します。現在の月給の一部を、後から固定残業代だったことにする処理は避けてください。基本給の一部を固定残業代へ振り替える変更も、従業員に不利益となり得るため、総額が同じという理由だけで進めず、労働条件変更の手続きを含めて検討する必要があります。

当事務所では、就業規則の作成・変更にも対応しています。日々の給与処理で疑問が出たときに、計算方法に加えて規程の記載や運用を併せて確認することで、担当者が変わっても同じ基準で処理しやすくなります。

不足が疑われたら、制度の変更前に事実を整理しましょう

固定残業代の時間数は、「その時間まで必ず残業させる」という意味ではありません。また、固定残業代の支払いと、法定時間外労働などに必要な36協定の締結・届出は別の問題です。制度を導入していても、協定の内容や時間外労働の上限を守り、長時間労働を防ぐ必要があります。

追加の支払いが毎月続く場合は、固定額を増やすことだけで対応せず、仕事量、担当者の偏り、締切の設定なども見直しましょう。実際の残業が少ないことを理由に制度を廃止する場合も、従来の賃金を一方的に減らせるとは限りません。

相談するときは、雇用契約書・労働条件通知書、賃金規程、求人票、勤怠記録、賃金台帳や給与明細、昇給の履歴を用意します。「いつから、誰に、何時間分として、いくら支払ったか」と、差額精算の実施状況をまとめると、確認すべき範囲が明確になります。

契約内容が明確で、勤怠記録と計算方法も整っていれば、社内で毎月の照合を進めることもできます。一方、固定残業代の内訳が不明、昇給後に計算を見直していない、最低賃金を確認していない、従業員から過去の残業代を請求されたといった場合は、回答や制度変更を決める前に相談することが望まれます。請求をめぐる紛争がある場合は、内容に応じて弁護士への相談も検討します。

当事務所は、労務相談のみの契約にも対応しています。給与計算を自社で続けながら、固定残業代の考え方や規程の運用について相談したい場合も、お気軽にご相談ください。

固定残業代の運用では、導入時の説明だけでなく、毎月の実績との照合と、賃金変更時の再確認が欠かせません。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、まずは契約書の内容と直近の給与計算があっているか、確かめるところから始めてみてください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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