士業コラム
遅刻を繰り返す社員に減給できる?中小企業が確認したい給与控除と指導の進め方

遅刻を繰り返す社員に減給できる?中小企業が確認したい給与控除と指導の進め方

「注意しても遅刻が続くので、給与を減らしたい」「10分の遅刻でも、30分単位で差し引いてよいのか」。始業時刻を守らない社員への対応では、周囲の負担や不公平感も気になるところです。

ただし、働かなかった時間分の賃金を支払わないことと、罰として給与を減らすことは、異なる扱いです。遅刻を改善してもらうためにも、給与の控除と指導を混同せず、事実と社内ルールを確認する必要があります。この記事では、通常の始業・終業時刻が決まっている社員を中心に、会社が確認したい点を解説します。

遅刻時間分の控除と、懲戒としての減給を区別します

本人の事情で遅刻し、働いていない時間については、原則として賃金は発生しません。その時間に対応する額を給与から差し引く扱いを、ここでは「遅刻控除」と呼びます。これに対し、職場の規律に違反したことへの制裁として、本来支払う賃金を減らすのが「減給の懲戒処分」です。

例えば、時給1,200円の社員が10分遅刻し、その10分について賃金を支払わない場合、対応する額は200円です。一方、「遅刻したら一律3,000円を引く」という運用は、単なる遅刻時間分の控除とはいえません。

月給制の場合は、雇用契約書や賃金規程を確認します。遅刻しても月額を減らさない定めがあれば、その内容に従う必要があります。また、基本給と各手当で支給条件が異なることもあるため、総支給額を一律に時間割りするとは限りません。「月給だから必ず控除できる」と決めつけないようにしましょう。

当事務所では、人事・労務全般の相談に加え、給与・賞与計算の代行を取り扱っています。遅刻への対応を見直すときは、指導方針だけでなく、賃金規程と実際の計算方法が一致しているかも、相談事項として整理できます。

この計算方法がきちんと行われていない場合、遡って正しい計算をし直す必要があり、間違いを発見してからかなり遡る必要が出てくる場合があります。

端数の切上げで、働いた時間の給与まで引かないようにします

遅刻控除として差し引く場合は、実際に働かなかった時間を確認します。10分の遅刻を30分に切り上げ、30分分の賃金を控除すると、実際に働いた20分についても支払わないことになります。

勤怠システムの集計単位が15分や30分になっていても、その設定だけで適法になるわけではありません。遅刻した時刻の記録と、給与計算に使う時間がどう処理されているかを確認してください。実際に働かなかった時間を超える部分は、単なる遅刻控除として処理できません。

先ほどの時給1,200円の例では、10分の遅刻控除は200円ですが、30分として計算すると600円になります。差額400円を「計算上の端数」として当然に引くことはできません。

また、始業時刻の前に会社が義務付けた準備作業を行わせている場合は、その時間の扱いも別に確認します。打刻時刻だけで遅刻かどうかを決めず、会社が働くことを求めている時刻と、実際に業務を始めた時刻を照合しましょう。フレックスタイム制などでは、通常の固定勤務と同じ基準をそのまま当てはめられない場合があります。

減給処分は、金額の上限だけで判断できません

懲戒として減給する場合、労働基準法第91条により、1回の事案に対する額は平均賃金1日分の半額まで、複数の事案がある場合の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までという制限があります。両方の制限を確認しなければなりません。

平均賃金は、通常の1日分の給与や基本給の日割額と同じとは限りません。原則として、算定事由が発生した日以前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って求めます。賃金締切日がある場合の算定期間や、除外する期間・賃金、時給制・日給制等の最低保障なども確認が必要です。

ただし、「上限以内なら減給してよい」という意味ではありません。懲戒の事由と種類・程度について就業規則等の根拠があり、社員に周知されているか、定められた手続きを守っているかを確認します。後から規定を作り、過去の遅刻を当然に処分できると考えるのも避けましょう。

さらに、労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒を無効としています。遅刻の理由や回数、時間の長さ、業務への影響、これまでの指導、本人の改善状況などを踏まえる必要があります。

「遅刻3回で必ず1日分を減給」「月給の1割なら何か月でも減らせる」といった機械的な扱いは適切ではありません。遅刻控除と減給処分を併せて検討する場合も、それぞれの根拠と金額を分けて確認します。

指導では、遅刻の理由と改善してほしい行動を確かめます

まず、遅刻した日、予定の始業時刻、実際の業務開始時刻、事前連絡の有無を整理します。「いつも遅い」という印象ではなく、具体的な記録を基に本人と話すことが大切です。

面談では、遅刻の理由と、会社が求める勤務ルールを理解しているかを確認します。寝坊、交通機関の遅延、通院などでは事情が異なります。体調や職場環境に関する訴えがあるときは、勤務態度だけの問題と決めつけず、必要な事実確認や勤務上の配慮を検討してください。

そのうえで、「始業時刻までに業務を開始する」「遅れると分かった時点で所定の連絡先へ知らせる」など、求める行動を具体的に伝えます。次に勤務状況を確認する時期も決め、会社の説明、本人の意見、合意した対応を記録します。改善が見られた点も残しておきましょう。

周囲の社員には、業務分担や連絡体制に必要なことを伝えますが、本人の健康状態や家庭事情、処分に関する情報を不用意に広げない配慮も必要です。皆の前で繰り返し叱責するなど、指導の方法自体がハラスメント問題にならないように進めます。

具体例で考える、給与処理と改善のための対応

例えば、従業員9人の会社で、事務担当者に月4回、各10分の遅刻があったとします。社長は「合計40分では軽すぎるので、半日分を引こう」と考えています。

この場合、遅刻控除として検討するのは、原則として働かなかった合計40分に対応する賃金です。まず、契約と賃金規程に基づく控除の可否・計算方法を確認します。半日分との差額を、そのまま遅刻控除に含めてはいけません。

別途、懲戒を検討するなら、規定の根拠、本人の事情、指導の経過、処分の相当性、減給額の制限を確認します。「9人だから就業規則は関係ない」と考えるのも適切ではありません。常時10人未満の事業場で作成・届出義務がない場合でも、懲戒には根拠となるルールの確認が必要です。そのため、常時10人未満の事業場でも、就業規則は準備しておいた方がトラブルになりにくいです。

面談で、本人が「始業時刻に出社すればよい」と理解していたことが分かったなら、会社が求める業務開始の時刻や準備作業の扱いを説明し直す必要もあります。給与を減らすことだけで解決しようとせず、原因に対応した指導と、その後の確認を進めましょう。

給与を確定する前に、規程と指導記録をそろえて相談しましょう

遅刻の事実と理由が明確で、控除の定めと計算方法にも疑問がなく、指導後に改善している場合は、社内の手順で対応できることもあります。すべての遅刻について、専門家への依頼が必要なわけではありません。

一方、減給処分を考えている、勤怠システムで時間を切り上げている、規程に控除の定めがない、本人と遅刻時間や理由の認識が異なる場合は、給与を確定する前に相談してください。既に控除している場合も、対象期間と計算の経緯をそのまま共有してください。

相談時には、雇用契約書・労働条件通知書、就業規則・賃金規程、勤怠記録、給与明細、注意や面談の記録を用意します。本人の説明と会社の受け止めを分けてまとめると、追加で確かめる事項を整理しやすくなります。

当事務所は、労務相談のみの契約にも対応し、就業規則の作成・変更を取り扱っています。給与計算は社内で続けながら、控除や従業員対応の判断を相談したい会社も、必要な部分だけご相談いただけます。処分の有効性などをめぐって紛争が生じている場合は、内容に応じて弁護士への相談も検討します。

遅刻への対応では、働かなかった時間の給与処理を正確に行い、勤務ルールを守ってもらうための指導を積み重ねることが大切です。豊島区で労務管理に悩む経営者の方も、規程と事実を検証してから従業員への対応を判断しましょう。業務で多忙など、検証に時間がかかるような様々なご事情があるかと思います。そんな時にはお気軽に弊所にお問い合わせください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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