士業コラム
メンタル休職のトラブルは入口で始まる?復職・退職まで見据えた対応

メンタル休職のトラブルは入口で始まる?復職・退職まで見据えた対応

「社員がメンタル不調で休職することになった。まずは治療に専念してほしい」。自然な判断です。ただ、休職開始時に期限や連絡方法、復職の手順が曖昧なまま時間が過ぎると、数か月後に「復職できると思っていた」「会社は認められない」と話が食い違うことがあります。退職の話が出てから慌てても、休職開始時の説明や記録は後から作れません。メンタル休職のトラブルを防ぐために、入口と出口を一つの流れとして考えます。

休職の「入口」で決めるのは、休ませるかどうかだけではない

社員から「しばらく働けません」という診断書が提出された。会社は無理をさせず、まず休んでもらうことにした。ところが、そのときは誰も休職期間の終わり方まで考えていない。数か月たち、復職の話になったところで初めて「そんな条件は聞いていない」と言われる。こうしたすれ違いは、会社と本人のどちらかが意地悪だから起こるわけではありません。

私傷病による休職は、原則として就業規則や雇用契約など会社の制度に沿って運用するものです。法律で一律に休職期間や復職手順が決まっているわけではありません。だからこそ、会社が制度をどう設計し、実際にどう伝えていたかが重要になります。

開始時に確認したいのは、休職の開始日と期間、延長や更新の条件、診断書などの提出時期、休職中の連絡先、賃金・社会保険料などの取扱い、そして復職を希望するときの手続です。就業規則を渡してあるから説明は足りている、とは言い切れません。本人が療養を必要とする状況なら、重要な点を簡潔な通知にして伝え、質問できる窓口も示しておく方が誤解を防げます。

もちろん、診断書が出たら必ず同じ扱いをするということでもありません。病状や就業規則、休職制度の適用条件などを確認し、当面の就業可否を適切に判断します。会社には安全配慮の問題もありますし、休職を認めないことや直ちに退職を求めることが適切でない場面もあります。最初から退職を前提とした説明をする必要はないのです。

「そっとしておく」と「何も決めずに放置する」は違う

休職中の連絡は、回数よりも目的を決める

療養中の社員に頻繁に連絡するのは負担かもしれない。逆に、何か月も連絡しないと会社は本人の状況を把握できない。どちらも心配だからこそ、担当者が迷う場面です。

休職開始時に、連絡する担当者、連絡手段、報告の目安、診断書の更新が必要な場合の提出期限を伝えておきます。毎週必ず病状を詳しく聞き取るような方法が適切とは限りません。まずは会社として必要な手続を案内し、本人の療養状況に応じて連絡の負担を調整します。連絡内容と日付を記録しておくことも、後日の認識違いを防ぐために有効です。

健康情報は非常に慎重に扱うべきものです。主治医に直接確認したい事項がある場合でも、原則として本人の同意を得て必要な範囲の情報を収集します。上司や同僚へ病名や治療内容を広く共有することとは違います。本人を安心させるための連絡が、別のトラブルを生んでは本末転倒でしょう。

期限が近づいて初めて復職の話をしない

休職期間満了まであと数日というときに、突然「復職可能の診断書を出してください」と連絡する。本人は急いで受診予約を取り、会社は資料が揃わないまま判断を迫られる。これではお互いに落ち着いて検討できません。

就業規則に定めた期限を管理し、満了が近づく前に必要な手続と確認事項を案内します。本人に復職の意思があるか、主治医の意見をどう受け取るか、会社としてどの業務への復帰を検討するか。いきなり結論を出すのではなく、検討の順番を整えるのです。ただし、休職中の本人への連絡は療養を妨げないよう配慮する必要があります。

休職の「出口」は、復職か退職かの二択で急がない

「復職可能」の診断書だけで決めてよいのか

「主治医は復職できると言っているのに、会社が認めてくれない」。一方で会社には、「復職可能と書かれているが、以前の業務を任せて大丈夫だろうか」という不安が残ります。この時点で対立してしまうと、双方が相手を信用できなくなりがちです。

厚生労働省の職場復帰支援の手引きでは、主治医の判断が、職場で必要な業務遂行能力の回復まで意味するとは限らない点に注意しています。会社は主治医の意見を軽視せず、実際の仕事内容や労働時間、必要な配慮を整理したうえで、本人の意向なども踏まえて復職可否を判断します。産業医がいない小規模事業場でも、本人の同意を得て主治医から必要な情報を確認する方法が考えられます。

その結果、従来の仕事へ戻る方向だけでなく、業務量の調整や配置転換などを検討する余地があるかもしれません。ただし、会社があらゆる希望を必ず実現しなければならないという意味でもありません。どの対応が必要で可能かは、契約内容、就業規則、業務の実情、本人の状態などによって異なります。大切なのは、復帰の可否を「診断書がある・ない」の一点だけで決めないことと言えます。

休職期間満了で退職になる場合、説明して終わりではない

十分な回復がみられず、休職期間が満了する場合もあります。このとき就業規則に自然退職の規定があるからといって、どんなケースでも当然に退職が有効になるわけではありません。復職できる状態だったのか、会社が必要な確認を行ったのか、規程と実際の運用が一致していたのかなどが後から問題になることがあります。

「期限が来たので退職です」の一言で済ませない。満了日までの経緯、本人からの申出、診断書や面談内容、検討した業務上の対応、本人へ伝えた内容を記録として残します。退職の可否に争いが生じそうなら、決定を急ぐ前に法的な検討が必要になることもあります。本人の療養を尊重することと、会社として説明できる判断をすることは、両立させたいものです。

そして、復職できた場合にも話は終わりません。復職後の業務量や労働時間、体調確認の方法を本人と共有し、必要に応じて見直します。入口と出口を結ぶ最後の仕事は、再休職を防ぐための運用なのです。

後で「聞いていない」を生まないための休職制度へ

メンタル休職の問題は、会社の善意が足りないから起こるとは限りません。むしろ「本人に負担をかけたくない」と細かい説明を控え、復職や期間満了の場面で初めて認識のずれが表面化することもあります。大事なのは、休職開始時の説明、休職中の連絡、復職の判断、期間満了時の対応を一つの制度としてつなげることです。

社内規程には休職期間だけ書かれていても、現場では誰が何を確認するのか分からない。そんな状態なら、制度を点検する余地があります。福岡県那珂川市のたけうち社労士オフィスでは、企業の休職・復職対応や就業規則の運用に関する相談を受け付けています。今の運用のままでよいのか、判断に迷う場面がある場合は、執筆者の事務所ホームページからお問い合わせください。

主な出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」「治療と就業の両立支援指針」(2026年4月適用)、厚生労働省「こころの耳」職場復帰支援に関する資料。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、たけうち社労士オフィスまでお問い合わせください。

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