士業コラム
助成金が不支給に。次回申請に向けた「ボタンの掛け違え」の直し方

助成金が不支給に。次回申請に向けた「ボタンの掛け違え」の直し方

「従業員の待遇を改善し必要な書類も提出したのに、助成金が不支給になってしまった」。そんな通知が労働局から届けば、何がいけなかったのか、次は申請できるのかと不安になるのは当然です。

助成金は、会社が良い取組をしただけで支給される制度ではありません。制度上の要件、実施した時期、実際の労務管理、それを裏付ける記録など様々な点が審査で確認され、その食い違いが不支給につながることもあります。不支給の原因をひとくくりにせず、どこでボタンを掛け違えたのかを整理し、次の取組につなげるための見直し方を考えます。

助成金が不支給に。やめるべきは「犯人捜し」

助成金の不支給通知が届くと「要件は満たしていただろう」「必要な書類は出したはず」「なのに不支給になった」「もうよくわからない」と考えてしまうことがあります。実際には、一人の不注意だけでは説明できないこともあります。制度を調べた人、従業員の契約を変更した人、給与計算をした人、申請書を作った人が、それぞれ正しいと思って動いていても、全体として支給要件と噛み合っていない場合があるからです。

もちろん助成金ごとに支給要件は異なります。不支給になったからといって、すべての会社で同じ原因が見つかるわけではありません。ただ雇用関係助成金では、共通要領に定められた事業主の要件に加え、個別の助成金の要件も満たす必要があります。書類をそろえることと要件を満たしていることは、似ているようで別の話です。

例えば従業員の処遇改善を目的とした助成金を想定します。会社は確かに賃金を引き上げたつもりでも、雇用契約書や就業規則上の変更日、実際の賃金支払日、対象となる期間の記録を照らすと、制度が要求する取組の時期や内容と一致しないことがあります。逆に、実際に適切な対応をしていても、その事実を確認できる資料が不足している場合もあります。

最初から「書類の不備だった」で片づけないことが、次の申請につなげるためにはとても大事です。何が足りなかったのかを見誤ると、次の申請でも同じところでつまずきかねません。徒労感で気持ちだけが落ち込んでしまうのです。

不支給の原因をほどく、3つの確認ポイント

1.不支給通知と、審査中のやり取りを一緒に見る

まず確認したいのは、不支給決定の通知、提出した申請書一式、審査中に求められた追加資料、問い合わせへの回答内容です。通知の文言だけでは具体的な事情を判断しにくい場合は、申請先にどの要件や事実関係が問題になったのかを確認します。

ここで気をつけたいのは、書類の補正を求められた段階と、正式な不支給決定を受けた段階を混同しないことです。取れる対応は、現在どの段階にあるかで変わります。また、今回適用される要件は、現在のパンフレットだけを見て決めるのではなく、その取組に適用される支給要領や申請様式で確認する必要があります。

2.取組の「日付」と、会社で実際に起きたことを並べる

次に、対象となる取組の時系列を作ります。制度に応じて、計画の提出、社内規程の整備、労働条件の変更、対象者への説明、実際の勤務、賃金の支払い、支給申請といった日付を並べます。すべての助成金で同じ手続が必要という意味ではありません。どの時点で何が必要だったのかを、適用される制度に照らして確かめる作業です。

例えば「4月から条件を変更した」という社内の認識があっても、雇用契約書の始期、給与明細の計算対象期間、賃金台帳に記載された金額が一致していないかもしれません。これは直ちに不支給を意味するものではありませんが、確認すべき重要な手がかりになります。担当者の記憶だけでなく、当時の資料を見て判断するのが基本です。

3.「要件を満たしていない」と「確認できない」を分ける

この違いは、次回の対策を考えるうえで特に重要です。例えば、求められる取組そのものが行われていなかったのであれば、次回は制度設計や実施時期を変える必要があります。一方、取組は行われていても、労働条件通知書、出勤簿、賃金台帳などの資料から確認できないのであれば、日頃の記録や保存方法が課題になります。

たけうち社労士オフィスのある福岡県では、福岡労働局がキャリアアップ助成金について、出勤簿・賃金台帳等の法定帳簿や労働条件通知書は原本の写しを提出するよう案内しています。後から説明しやすい形に転記した表が、必ずしも提出資料として認められるわけではありません。

ただし、提出済みの書類を自由に差し替えられるとは限りません。過去の事実と異なる契約書や勤怠記録を作り直すことは、当然避けなければなりません。審査中に補正を求められているなら、その指示の範囲で正確に対応し、不支給が確定しているなら次の取組に向けた改善点として整理します。

次回の助成金申請は、書類作成より前に始まっている

不支給を経験した企業が次に考えたいのは、「今度は申請書をきれいに整えること」だけではありません。むしろ、申請書を作る前の段階に改善の余地があるケースが実は多いのです。

まずは、次に予定する取組について、対象となる助成金、事業主と労働者の要件、必要な事前手続、取組の実施時期、申請期限を一枚の予定表に落とし込みます。そして、規程・契約書を管理する人、勤怠を管理する人、賃金を確認する人、申請を担当する人の間で、どの書類をいつまでに確認するかを共有します。

もう一つは、普段の労務管理を「助成金の審査でも説明できる状態」にしておくことです。雇用契約書と実際の勤務が合っているか、労働時間に応じた賃金が支払われているか、変更した労働条件がいつから適用されているか。日常業務の延長で確認できるようになれば、申請時に慌てて記録を集める負担も減ります。助成金のためだけに帳簿を整えるのではなく、もともとの労務管理を見直すという順番です。

なお、一度不支給になった取組について、そのまま再申請できるとは限りません。次の取組を新たに行う場合でも、過去の不支給理由や助成金ごとの要件を確認することが必要です。通常の要件不適合と、虚偽申請などによる不正受給に関する問題も区別しなければなりません。不正受給が関係する場合は、以後の申請に影響する制限が設けられています。

「申請したのに不支給だった」という経験を、単なる失敗として終わらせる必要はなく、制度と会社の実務の間で何がすれ違ったのかを確かめれば、同じ問題を繰り返さないための課題は見えてきます。もっとも、個別の不支給理由の評価や次回の申請可否は、通知内容と適用される要領を踏まえた判断が必要です。

たけうち社労士オフィスでは、助成金の申請手続だけでなく、申請前の労務管理や書類整備についても相談を受け付けています。次回の申請に向けて何を変えるべきか整理したい場合は、執筆者の事務所ホームページからご相談ください。

主な出典:厚生労働省「雇用関係助成金の申請にあたって(共通要領)」「キャリアアップ助成金」、福岡労働局「キャリアアップ助成金のご案内」。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、たけうち社労士オフィスまでお問い合わせください。

この記事をシェアする
  • LINE
  • X
  • Facebook

その他の記事