士業コラム
障害年金の診断書に生活の実態が伝わらない?医師への伝え方と準備

障害年金の診断書に生活の実態が伝わらない?医師への伝え方と準備

「診察ではつい、大丈夫ですと答えてしまう。でも家では家族の手助けがないと暮らせない。このまま障害年金の診断書を書いてもらってよいのだろうか」。そんな不安を抱える方は少なくありません。

医師が日々の暮らしをすべて知っているとは限らず、患者さんも限られた診察時間で何を話せばよいのか迷います。診断書を有利に書いてもらう方法ではなく、実際の困りごとを誤解なく伝える準備と、完成後に確認したい点を整理します。

診察室での「大丈夫」は、家での「大丈夫」とは違う

「最近どうですか」「まあ、何とかやっています」。診察でこんなやり取りをして、そのまま帰宅することはないでしょうか。診察には行けたし、その日は受け答えもできた。決して嘘をついたわけではありません。ただ、家に戻れば食事の支度ができず、薬を飲むにも家族から声をかけてもらっているといったような部分までは話していないこともよくあります。

障害年金の診断書では病名や検査結果だけでなく、障害によって日常生活や仕事にどのような制限があるのかが重要になります。日本年金機構も、障害の程度を適切に判断するため医師が作成する診断書にはできる限り詳細で具体的な記載が重要だと案内しています。

問題は「主治医が事情を分かってくれない」という単純な話ではありません。医師は診察で得た情報や医学的な知見を基に判断する一方で、本人が自身が、困っていることをうまく説明できなかったり、家族の支援が当たり前になっていて本人も「できていない」と気づいていなかったりする。そうすると診察室と日常生活の小さなずれが生まれます。そしてそのズレは意外なほどたくさんあります。

その数々のズレを放置したまま診断書の作成を頼むと、本人が本当に伝えたかった生活上の制約が十分に伝わらないのです。だからこそ、診断書を依頼する前の準備にはとても大切な意味があるのです。

医師に伝えるのは「つらさの大きさ」より、具体的な暮らし

1.「できる・できない」だけでなく、誰の助けでできているか

例えば「食事はできますか」と聞かれたとき、用意された食事を食べられることと、買い物に行き、献立を考え、調理し、後片づけまで続けられることは同じではありません。服薬についても、薬を飲んでいる事実だけでは、家族の声かけが毎日必要なのか、自分で管理できているのかは分かりにくいです。

精神の障害用の診断書では、食事、清潔保持、金銭管理、通院・服薬、対人関係など、日常生活能力に関する項目が設けられています。こうした項目は、本人が単身で生活するとした場合の能力を考える視点も重要です。家族が何気なく引き受けている手助けを、「問題なく生活できている」の一言で消してしまわないようにしたいところです。

もちろん、障害の種類によって必要な診断書や評価項目は異なります。身体の障害なら動作の制限や検査所見、内部疾患なら病状や治療内容など、それぞれの様式で確認されることが違います。すべての方に同じ質問を当てはめる話ではありません。

2.「一番悪かった日」だけでなく、普段の状態を伝える

診察前に、一週間から数週間ほどの暮らしを振り返ってみます。朝起きられない日がどれくらいあるか、外出後に何日も寝込んでしまうことがあるか、予定を忘れて誰かの助けを借りたか。回数や頻度が分かると、漠然と「つらい」と伝えるより状況が具体的になります。

ただし、困った出来事だけを拾い集めて、毎日が最悪の状態であるかのように書くのも違います。調子のよい日があるなら、それも含めて正直に伝える。症状の波があること自体が、必要な情報だからです。

ご家族と暮らしているなら、本人には見えていない支援を聞いてみるのも一つの方法です。「自分では毎日洗濯していると思っていたが、実際は家族が声をかけて、途中から手伝っていた」ということもあり得ます。誰が悪いわけでもありません。暮らしの実態を確認しているだけです。

3.働いている人は、職場で受けている配慮も書き出す

「仕事に行っているのだから、障害年金は難しいのでは」と考える方もいます。しかし、働いているという事実だけで受給できないと決まるわけではありません。実際には勤務時間を短くしている、業務を限定している、周囲が確認を重ねている、欠勤や早退が続いているといった事情があるかもしれません。

職場で何を任され、何を免除されているのか。出勤を続けるためにどんな調整が必要か。これらも主治医に伝えたい情報です。反対に、特別な配慮がなく安定して働けているのであれば、その実態をそのまま伝えます。評価を良くするために話を盛る必要も、遠慮して軽く話す必要もありません。

診断書を頼む前と、受け取った後で確認すること

まず、障害年金の請求に必要な診断書の種類と、いつの障害状態を記載してもらうのかを確認します。障害認定日を基準とする請求なのか、現在の状態による請求なのかなどによって、必要となる資料や診断書の時点が異なる場合があります。日本年金機構は、診断書作成前に年金事務所等へ確認するよう案内しています。主治医にお願いするのは、その確認を済ませてからの方が行き違いを防げます。

次に、先ほど整理した生活や就労の情報を、無理のない分量で主治医へ伝えます。箇条書きのメモでも構いません。「毎日こうです」と断定するより、「週に何回ほど」「何をすると」「誰がどの程度手伝っているか」を書いた方が役立つ場合があります。診察で話せなければ、受診前に病院へ資料の渡し方を相談する方法もあります。ただし、患者側が診断書の評価欄や医学的所見を指定するものではありません。診断書を作成するのは、あくまで医師です。

完成した診断書を受け取ったら、氏名、生年月日、日付、通院歴などの基本事項を確認するとともに、自分が伝えた事実と明らかに食い違う記載がないかを見ます。誤記や伝わっていなかった事情があれば、感情的に訂正を迫るのではなく、具体的な資料を示して医師に相談します。医学的な評価が本人の希望と違うというだけで、変更を求められるものではありません。

また、本人などが作成する「病歴・就労状況等申立書」と診断書は、病歴や生活状況を説明するうえで関係する書類です。表現を無理に一致させるのではなく、時期や事実関係に食い違いがないかを確かめます。診断書だけで受給が決まるわけではなく、初診日や保険料納付などの要件も別に確認が必要です。

「ちゃんと説明したつもりなのに、伝わっていなかった」。それが年金受給申請の結果に大きく影響します。そんな後悔は、少しの準備で減らせるかもしれません。

たけうち社労士オフィスでは、福岡県那珂川市を拠点に、障害年金の請求に必要な書類や手続の整理を支援しています。診断書の依頼前に何を確認すべきか迷っている方は、執筆者の事務所ホームページからご相談ください。

主な出典:日本年金機構「障害年金の診断書を作成する医師の方へ」「障害年金の請求手続き等に使用する診断書・関連書類」「精神の障害用の診断書を提出するとき」。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、たけうち社労士オフィスまでお問い合わせください。

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