士業コラム
社員の給料を引き下げたいときは?会社が確認したい同意と手続き

社員の給料を引き下げたいときは?会社が確認したい同意と手続き

売上が落ち込み、固定費を見直さなければならない。役員報酬や経費の削減だけでは足りず、社員の基本給を下げることを検討する経営者もいるでしょう。しかし、「来月から全員の給与を1割減らす」と通知するだけでは、労働条件を有効に変更できるとは限りません。

給料は社員の生活に直結する重要な労働条件です。会社に減額の必要性があっても、本人の合意や就業規則の内容などを確認せずに実施すると、未払い賃金をめぐる問題につながるおそれがあります。ここでは、給与の引き下げを検討する会社が、実施前に確認したい事項と対応の順序を説明します。

給料は会社の判断だけで引き下げられるのか

原則は会社と社員の合意が必要

労働契約法第8条では、労働者と使用者が合意することで労働条件を変更できると定めています。基本給や各種手当も労働条件に当たるため、会社の経営判断だけで自由に引き下げられるわけではありません。

たとえば、月額30万円の基本給を27万円に変更したい場合、変更額と開始時期を社員に説明し、本人が理解して同意することが基本となります。会社が一方的に通知しただけでは、従来の給与との差額を請求される可能性があります。

合意は必ずしも書面でなければ成立しないわけではありません。ただし、後から説明内容や同意の有無について争いにならないよう、変更後の金額、適用開始日、変更理由などを記録した書面を取り交わすことが望まれます。

就業規則を変えれば減額できるとは限らない

就業規則に給与の決定方法を定めている会社でも、規則を書き換えるだけで既存社員の給与を当然に減額できるわけではありません。労働契約法第9条は、原則として、合意のない一方的な就業規則変更による不利益変更を認めていません。

一方、同法第10条には、変更後の就業規則を周知し、変更内容が合理的である場合の例外があります。合理性は、社員の不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などから総合的に判断されます。経営が苦しいという説明だけで、必ず要件を満たすものではありません。

減額を決める前に確認したい資料

現在の給与が何によって決まっているか

まず雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、過去の給与改定通知などを集めてください。基本給が個別に約束された金額なのか、等級や役職と連動する仕組みなのかで、検討すべき点が異なります。

「役職手当を外すだけだから問題ない」と考える場合も注意が必要です。役職の変更が有効か、手当の支給要件を満たさなくなったか、実際には基本給の減額と同じ効果を生じさせていないかを分けて確認します。制度の名称よりも、契約内容と実際の運用が重要です。

減額の必要性と代替策を整理する

社員に説明する前に、売上・利益の推移、資金繰り、固定費の内訳などを整理します。なぜ給与の見直しが必要なのか、いつからどの程度の減額が必要なのか、どの期間を想定しているのかを具体化してください。

役員報酬や外注費の見直し、採用計画の変更など、他の方法を検討した経緯も説明材料になります。給与を下げること自体が目的にならないよう、必要な削減額と手段を切り分けることが大切です。

社員への説明と合意はどう進めるか

対象者・金額・開始日を明確にする

最初に、対象となる社員の範囲と減額方法を決めます。一律の減額なのか、役職・等級ごとに異なるのかによって、公平性や説明の難しさが変わります。最低賃金を下回らないことはもちろん、残業代の計算基礎や社会保険の手続きへの影響も確認が必要です。

減額案を示す際には、現在の金額と変更後の金額、変更開始日、手当や賞与への影響、見直しの予定があればその条件まで具体的に伝えます。将来元に戻すことを約束できない場合は、安易に「一時的」と説明しないようにしましょう。

説明の機会を設け、回答を急がせない

会社側の事情を伝えた後、社員から質問を受ける機会を設けます。減額理由に納得できない社員もいるため、反対意見を聞かずに署名だけ求める進め方は避けたいところです。

説明会の資料や個別面談の記録を残し、回答まで検討時間を設けます。社員が書面に署名した場合でも、十分な説明がなかったり、強い圧力の下で署名させたりした場合には、合意の有効性が争われることがあります。形式的な同意書の取得だけを目標にしないことが重要です。

社員が同意しない場合はどうするか

同意しないことを理由に直ちに減額しない

本人が減額を拒否した場合、まず理由を確認し、会社の説明に不足がなかったかを振り返ります。生活への影響が大きい社員には、減額幅や実施時期の再検討が必要になることもあります。

同意が得られないからといって、直ちに減額した給与を支払うことは避けてください。会社が変更の効力を誤って判断すると、従前の賃金との差額が未払いとなるおそれがあります。拒否した社員に対して、不利益な扱いを示唆して同意を迫ることも適切ではありません。

就業規則の変更を検討する場合は慎重に

個別の合意が難しい場合に就業規則変更を検討することはありますが、合理性の判断は事案ごとに異なります。特に減額幅が大きい場合や、一部の社員だけに負担が集中する場合は、法的な検討が欠かせません。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更に際して、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴き、所轄労働基準監督署へ届け出る手続きも必要です。ただし、意見聴取や届出を行っただけで、不利益変更の合理性が認められるわけではありません。

実施後の給与計算にも注意する

給与の変更が有効に成立した場合も、給与計算の切り替えを正確に行います。月の途中から変更するなら、賃金規程や合意内容に沿って適用期間を確認してください。残業単価、欠勤控除、各種手当などに連動する部分も点検します。

また、固定的賃金の変動は、一定の要件を満たすと社会保険の随時改定(月額変更届)の対象になることがあります。単に基本給が下がっただけで直ちに標準報酬月額が変わるわけではないため、変動後の報酬や支払基礎日数などの要件を確認します。

変更後の給与明細に誤りがないかを確認するとともに、社員からの問い合わせ窓口を決めておくと、認識の食い違いを早期に把握できます。

給与の見直しに迷ったら、実施前に相談を

給与減額の検討では、「いくら下げるか」より先に、現在の労働条件、減額の必要性、変更方法を整理することが重要です。社員との合意によって対応できる場合もありますが、就業規則の不利益変更が関係する場合や、同意しない社員がいる場合は慎重な判断が求められます。

相談する際には、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則・賃金規程、給与明細、減額案、経営状況を示す資料などを用意すると、論点を整理しやすくなります。

東京都豊島区の城田社会保険労務士事務所への相談を検討する際も、まずは何を変更したいのか、どの段階で社員に説明しているのかを整理しておくとよいでしょう。給与の引き下げは、実施してから問題に対応するよりも、実施前に手順を確認することが大切です。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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