士業コラム
社員が業務指示に従わないときは?中小企業が確認したい指導と懲戒の進め方

社員が業務指示に従わないときは?中小企業が確認したい指導と懲戒の進め方

「頼んだ仕事を何度も断る」「注意しても指示どおりに動かない」 社員の対応に困った経営者は、業務命令違反として処分できるのか悩むことがあります。しかし、指示に従わなかったという結果だけで懲戒を決めるのは危険です。指示自体の合理性、本人が従えない理由、これまでの説明や指導を分けて確認する必要があります。ここでは中小企業が実務で進めたい確認と対応を整理します。

最初に「どの指示に、どう従わなかったか」を整理する

指示の内容と伝え方を確認する

まず、指示を出した日時、担当者、具体的な仕事内容、期限、本人の返答を記録します。「協調性がない」「反抗的だ」といった評価だけでは、何が問題だったかが曖昧になります。口頭の指示で行き違いが生じている場合は、業務の目的、優先順位、完了条件をメールなどで改めて示しましょう。

指示が雇用契約上の業務範囲に含まれるか、就業規則や職務分掌と整合するかも確認します。上司が出した指示なら何でも従う義務があるわけではありません。法令違反を伴う作業、安全配慮を欠く作業、業務上の必要性が乏しく不当な目的を持つ指示などは、指示自体の妥当性が問題になります。

従えない事情を本人から聞く

本人の説明を聞く前に「命令違反」と断定しないことが大切です。別の上司から矛盾する指示が出ていた、期限までに処理できない業務量だった、必要な研修を受けていなかった、健康上の制約があった、といった事情も考えられます。面談では事実と本人の認識を分けて確認し、必要なら担当業務や作業手順を見直します。

注意・指導は具体的な改善行動と期限を示す

人格ではなく業務上の行動を対象にする

注意する際は「昨日依頼した顧客への回答が未実施だった」のように事実を示し、どのような対応を求めるかを伝えます。「やる気がない」「社会人失格」などの人格評価や、周囲の前で長時間叱責する方法は避けましょう。指導の必要性があっても、態様によってはパワーハラスメントの問題が生じます。

改善を求める内容は、担当者への報告時刻、作業の優先順位、相談が必要な場合の連絡方法など、確認可能な行動に落とし込みます。達成できる期限を設け、会社側が必要な資料や教育を提供できているかも点検してください。

指導記録を残し、改善の機会を設ける

指導日、同席者、指摘した事実、本人の説明、合意した改善策、次回確認日を簡潔に記録します。本人に確認を求める場合も、署名しないことだけを新たな非違行為と決めつけないよう注意が必要です。面談後に要点をメールで送る方法もあります。

改善が見られない場合は、前回の指導と今回の行動を比較します。初回の軽微な行き違いと、明確な説明を受けた後も正当な理由なく重要な指示を繰り返し拒む場合では、評価が異なります。

懲戒処分を検討する前に確認すること

就業規則の根拠と処分の相当性

懲戒には、就業規則等に定められた根拠と適切な周知が重要です。労働契約法第15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には権利濫用として無効になると定めています。規定に「業務命令違反」と書かれているだけで、直ちに重い処分が有効になるわけではありません。

指示の重要性、違反の回数や影響、本人の説明、過去の指導、同種事案との均衡を検討します。弁明の機会など就業規則に定めた手続きも確認してください。事実確認が不十分なまま処分を通知すると、後から説明が食い違う原因になります。

減給・出勤停止・解雇は特に慎重に

減給の制裁には労働基準法第91条の上限があります。1回の額は平均賃金の1日分の半額を超えず、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えられません。ただし、この上限内なら処分が必ず有効という意味ではありません。

出勤停止は規程の根拠や期間の相当性を確認し、懲戒解雇はさらに慎重な検討が必要です。解雇には労働契約法第16条による制限があり、解雇予告等の問題も別途生じます。「次に断ったら即解雇」と安易に告げず、処分を考える段階で専門家に確認しましょう。

想定例:仕事の依頼を繰り返し断る社員

従業員20人の会社で、営業社員が顧客への見積書作成を繰り返し断ったとします。社長は懲戒を考えましたが、確認すると、その社員には別の管理職から緊急案件も割り振られていました。優先順位が示されていなかったため、本人は先に緊急案件を処理していたのです。

この場合、まず指示系統と業務量を整理し、期限と優先順位を明示することが先決です。社員が言いづらい状況があるかもしれませんので、状況を聞きだすことも必要な場合があります。一方、整理後も本人が理由を説明せず、重要な指示を繰り返し拒否するなら、指導履歴と影響を記録し、就業規則に沿った対応を検討します。

再発防止と専門家への相談の進め方

指示系統と社内ルールを整える

複数の上司が同時に指示する職場では、優先順位を決める責任者を明確にしましょう。重要な業務指示は、担当者、期限、報告先を記録できる仕組みにすると、本人の誤解と会社側の説明不足の双方を減らせます。管理職にも、事実に基づく指導と面談記録の取り方を共有します。

相談前に用意したい資料

専門家に相談する際は、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、業務指示のメール、面談記録、本人の説明、業務への影響が分かる資料をそろえると、判断の分かれ目を整理しやすくなります。ハラスメントの申告や健康上の事情がある場合は、その対応経過も区別してまとめてください。

城田社会保険労務士事務所では、中小企業の人事・労務相談や就業規則の作成・変更を取り扱っています。指導の進め方や規程の整備に迷う場合は、事実関係と記録を整理したうえで相談できます。懲戒の有効性をめぐる紛争や訴訟対応が必要な場合は、弁護士への相談も検討してください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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