士業コラム
回収できない売掛金は経費にできる?中小企業が確認したい貸倒損失の判断と準備

回収できない売掛金は経費にできる?中小企業が確認したい貸倒損失の判断と準備

「何度請求しても代金が振り込まれない」「何年も前の売掛金が決算書に残っている」。入金が止まったとき、資金の確保とともに気になるのが、回収できない金額を経費にできるかという問題です。

ただし、支払期日を過ぎたことや、社長が回収を諦めたことだけで、法人税の計算上の費用にできるわけではありません。法人の売掛金について、貸倒損失を検討する際の条件と、決算前に整理しておきたい資料を解説します。

まず、売掛金の残高と入金がない理由を確かめます

売掛金は、商品やサービスを提供し、売上として計上した代金のうち、まだ受け取っていないものです。通常、売上の計上と入金の時期は一致しません。後から代金を回収できなくなった場合には、元の売上を単に取り消すのではなく、回収不能となった事情に応じた処理を検討します。

最初に確認したいのは、帳簿に残る売掛金が、本当に未回収なのかという点です。振込名義が違うため入金を見落としている、別の請求分に充当している、返品や値引きの処理が漏れているといった場合もあります。取引先別の元帳、請求書、預金明細を照合しましょう。

残高が確認できたら、請求漏れ、単なる支払遅延、取引内容への異議、相手の経営悪化など、入金がない理由を整理します。理由によって、再請求や内容確認で対応できるのか、回収方法や税務処理の検討が必要なのかが変わります。

当事務所では、日々の会計・税務の疑問への対応に加え、帳簿から業績を確認し、改善点を一緒に検討しています。売掛金についても、残高だけでなく取引と入金の記録を共有いただくと、確認が必要な箇所を具体化しやすくなります。

貸倒損失の判断は、回収できない事情によって異なります

貸倒損失とは、売掛金などの債権が回収できなくなったことによる損失です。法人税の計算で差し引ける費用等を「損金」といいますが、会計上損失を計上しただけで、必ず損金になるわけではありません。代表的には、次のような事情を確認します。

法的な手続きなどで債権が切り捨てられた場合

再生計画の認可などにより、債権の一部が切り捨てられる場合があります。この場合は、切り捨ての内容と、その事実が生じた事業年度を確認します。破産したという知らせだけで、残高全額を一律に処理できるとは限りません。届いた通知や決定書は保管してください。

また、債務超過が相当期間続き、弁済を受けられない状況で、書面による債務免除をする場合にも、税務上の取扱いがあります。ただし、通知を作れば損金にできるという制度ではありません。回収可能性と、債権を放棄することによる影響を、実行前に確認する必要があります。

全額を回収できないことが明らかになった場合

相手の資産や支払能力などから、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度に、貸倒れとして損失を計上する処理を検討します。

単に赤字である、連絡が取りにくいという事情だけで結論は出せません。担保があれば、その処分に関する条件も確認します。保証人がいるときは、保証人からの回収可能性も関わります。「売掛金のうち半分の回収が難しそうだから、半額だけ貸倒損失で損金処理しよう」と、自己判断で処理することも避けましょう。

「1年入金がないから処理できる」とは限りません

売掛金には、一定期間の取引停止後に弁済がない場合などについて、形式的な基準による貸倒処理が認められる取扱いがあります。ただし、すべての未回収金に適用できるわけではありません。

取引停止後1年以上という基準では、継続して取引していた相手の資産状況や支払能力が悪化し、その後の取引を停止したという事情が前提になります。たまたま1回だけ取引した相手について、同じ基準をそのまま使うことはできません。

また、起点は請求書を発行した日とは限りません。取引停止の時、最後の弁済期、最後の弁済の時を確認し、該当する中で最も遅い時からの期間を確かめます。途中で一部入金があると、確認すべき日付が変わる可能性があります。

この取扱いでは、担保物の有無や、備忘価額を残して貸倒れとして損失計上することも確認します。備忘価額は、債権の存在を帳簿に残しておくための金額です。貸付金はこの売掛債権の取扱いに含まれないため、社長や取引先への貸付けに流用しないようにしてください。

例えば、継続取引先への売掛金が80万円あり、相手の支払能力の悪化で取引を停止したケースを考えます。停止から1年を過ぎていても、その後の一部入金から1年未満であれば、要件を満たしません。「取引停止から1年たった」という情報だけでは処理を決められないため、取引の流れを時系列に並べることが判断の第一歩です。

決算前に、請求と回収の経緯を資料にまとめましょう

税理士へ相談するときは、取引先名、残高、取引内容、最終取引日、支払期日、最終入金日を整理します。請求書、契約書、納品や業務完了を示す資料、入金履歴、督促の記録、相手からの回答などを対応させると、事情を説明しやすくなります。

電話で支払いを求めた場合も、日時、相手、回答内容を残しましょう。「何度も催促した」という説明だけでは、いつ、どの債権について、どのような回答があったか分かりません。メールや郵便の記録があれば併せて保管します。

相手の経営状態に関する通知や、裁判所・代理人から届いた書類、担保や保証の資料も重要です。資料がそろわないときは、確認できた事実と、担当者の推測を分けて伝えてください。記録がない部分を、後から実際と異なる内容で埋めることは避けます。

貸倒損失は、どの事業年度で扱うかも重要です。古い債権だからといって、都合のよい年度で自由に損金にできるものではありません。決算直前に残高だけを伝えるのではなく、回収に問題が生じた段階から情報を共有しましょう。過年度に処理すべきだった可能性がある場合も、当時の状況を確認します。

税務処理と、会社の資金・回収方針を併せて考えます

貸倒損失を計上できても、未回収の代金そのものが会社に入るわけではありません。税負担への影響と、給与や仕入代金を支払うための資金は、分けて確認する必要があります。

いざという時に備えて、中小機構の「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」に加入すると連鎖倒産を防ぐためのリスクヘッジになります。取引先が倒産した際(夜逃げは除きます)、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入ができ、掛金は損金(経費)にできます。解約返戻金もあり、掛金を12か月以上納めれば8割以上、40か月以上納めていれば掛金全額が戻ります。取引先1社で売上全体の3分の1以上を占めているなど、1つの取引先が倒産したときに大きな影響を受ける会社は、特に加入しておいた方が良い制度です。

入金が不確かな売掛金を、確実に入るお金として資金予定に入れ続けると、支払日の不足を見落としかねません。回収予定額と時期を見直し、予定どおり入らない場合に必要な資金も把握しましょう。当事務所は、税務申告・会計代行に加え、資金繰りの相談も取り扱っています。未回収が会社の支払いに影響しそうな場合は、残高と支払予定を併せてお伝えください。

一方、代金の支払義務自体が争われている、交渉が必要、法的な回収手続きを検討したいといった場合は、弁護士への相談も検討します。税務上の貸倒処理と、相手に請求できる権利がどうなるかは別の問題です。税金の処理だけを目的に、安易に債権放棄の通知を出さないことが大切です。

社内で請求と入金を照合でき、単なる振込漏れと確認できる場合は、通常の連絡で解決することもあります。反対に、長期の未回収、相手の廃業や支払能力の悪化、債務免除の検討、過年度からの残高がある場合は、決算処理を決める前に税理士へ相談しましょう。

未回収の売掛金に悩む経営者の方は、まず、取引先ごとの残高と入金が止まった経緯を整理してみてください。回収の見通し、損金にできる条件、資金への影響を順に確かめることが、適切な決算と次の対応につながります。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、とちの会計事務所までお問い合わせください。

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