士業コラム
役員報酬は年度途中で変更できる?中小企業が知っておきたい増額・減額の注意点

役員報酬は年度途中で変更できる?中小企業が知っておきたい増額・減額の注意点

「売上が伸びたので、来月から社長の報酬を増やしたい」「資金に余裕がないので、しばらく報酬を減らしたい」。会社の業績に合わせて役員報酬を調整したいと考える経営者もいるでしょう。

ただし、会社として報酬を変更することと、その支出を法人税の計算で損金にできることは別です。毎月の役員報酬には、支給額や改定時期に関する税務上のルールがあります。変更を決める前に確認したいことを、中小企業の経営者に向けて解説します。

支払った役員報酬がすべて損金になるとは限りません

損金とは、法人税の所得計算で収益から差し引くことが認められる原価や費用などです。会計上の費用と範囲が一致するとは限りません。会社が役員報酬として費用を計上しても、税務上の要件を満たさない部分は、申告時に所得へ加算することになります。

毎月支払う役員報酬で基本となるのが「定期同額給与」です。一般的には、毎月など1か月以下の一定の間隔で支払い、各支給時期の金額が同額である給与をいいます。一定の要件を満たす改定では、改定前と改定後でそれぞれ同額であることなどが求められます。

したがって、今月は利益が多いから増やし、翌月は支払いが多いから減らすという運用では、定期同額給与の要件に問題が生じます。従業員の給与と同じ感覚で、役員報酬を毎月調整しないようにしましょう。

また、定期同額給与に該当していても、不相当に高額な部分まで損金になるわけではありません。支給方法や時期に加え、金額の妥当性も確認が必要です。役員賞与には別の制度が関わるため、月額報酬とは分けて考えます。

通常の見直しは、原則として期首から3か月以内に行います

毎期の業績見通しなどに基づく通常の改定は、原則として事業年度開始から3か月以内に行うことが、定期同額給与として扱われるための要件の一つです。

例えば、4月1日から翌年3月31日までを事業年度とする会社では、通常の改定について、6月30日までという時期を意識する必要があります。「3月決算だから、次の決算までいつでも変更できる」ということではありません。

ここで確認するのは、単に振込額を変えた日だけではありません。いつ報酬を改定したか、いつの支給分から新しい額を適用するか、従来の支給日とどうつながるかを整理します。決議日と初回の支給日が異なる場合もあるため、「3か月以内に振り込めばよい」とだけ覚えるのは避けましょう。

報酬額は、直前の決算の利益だけで決めず、新年度の売上見込み、人件費や家賃、借入金返済、納税予定なども踏まえて検討します。利益が見込めても、代金の回収が遅ければ、毎月支払える資金が十分とは限りません。

当事務所では、会社の業績をお伝えし、必要な売上や借入れの状況などを踏まえて改善点を一緒に検討しています。役員報酬を見直す場面でも、希望額に加え、今後の収支や支払いの予定を共有いただくと、検討すべき点を整理しやすくなります。

期中の変更は、増額・減額の理由を確認します

利益が増えたことだけで、自由に増額できるわけではありません

期首から3か月を過ぎてから、「予想より利益が出そうなので、社長の報酬を増やしたい」と考えることがあります。しかし、利益が増えたという理由だけで、増額分が当然に定期同額給与として認められるわけではありません。

一方、役員の地位の変更や職務内容の重大な変更など、一定の臨時改定事由による改定は、通常の改定とは別に検討します。肩書を変えたという形式だけで結論を出さず、実際に職務や責任がどう変わったかを確認することが大切です。

「忙しくなった」「売上目標を達成した」という事情と、税務上の臨時改定事由は同じではありません。変更前後の業務、責任、改定の必要性を具体的に説明できるかが検討の出発点になります。

期首から3か月を過ぎてからの役員報酬の増額は税務上デメリットが生じやすいため、決算時の打合せで翌期の役員報酬の金額を相談することは重要です。

利益が出ているときに、役員報酬を増額させることは資金繰りにもつながります。期首から3か月以内に増額させた役員報酬は、会社の損金になります。会社の損金になると、利益を圧縮することができ、決算時の法人税はその分少なくなります。役員報酬から控除される源泉所得税は増えますが、源泉所得税は毎月又は半年に一度、会社で納税します。会社の利益を、役員報酬にある程度割り振ることで、税金を所得税と法人税に分けて納税できます。一度に多額の法人税を納税するよりも、期中所得税で納税しておいた方が、資金繰りは安定します。

資金が足りない場合も、減額理由の確認が必要です

減額であっても、税務上の確認は必要です。経営状況が著しく悪化したことなどによる一定の減額は、業績悪化改定事由による改定として検討します。

ただし、一時的な資金繰りの都合や、単に業績が目標に届かなかったことは、この理由には含まれません。「売上が少し下がったから」「今月だけ支払いが重なったから」という説明だけでは、判断できないのです。

確認したいのは、売上や利益がいつからどう変化し、今後どのような見通しで、なぜ報酬を減らさざるを得ないのかです。試算表や資金の予定、取引の変化を示す資料を揃え、経営状態と減額の理由をつなげて検討しましょう。

経営状況が著しく悪化する事由、例えば「売上の大半を占める主要な得意先が不渡りを出した」など客観的に明らかな場合以外は、減額しない方が良いでしょう。もし資金繰りが厳しい場合、中小企業では役員報酬はいったん支給しますが、社長から借入をする会計処理をして、会社に資金を残すことも多いです。

「社長が自分から減額すると言っているから問題ない」とも限りません。本人の了承があることと、法人税上の損金算入要件を満たすことは別に確認します。

変更前後の金額と経緯を記録しましょう

例えば、説明用の架空の会社として、3月決算法人が毎月50万円の社長報酬を支払い、10月から70万円に増額したいと考えた場合を想定します。理由は「利益が予想より増えたため」で、職務内容や地位に変更はないものとします。

この場合、通常の改定時期を過ぎており、増額の理由も確認が必要です。仮に定期同額給与として認められない増額であれば、上乗せした月額20万円について、損金にできない部分が生じます。「会社から実際に支払ったので、70万円全額を損金にできる」とは考えないようにしましょう。

一方、減額の場合は、「減らしたのだから税務上は何も問題にならない」とは限りません。改定前の支給額と改定後の支給額、その期間などに応じて、損金不算入額の検討が必要になることがあります。増額の例と同じ計算を、そのまま当てはめないことが大切です。

変更を検討するときは、現在の報酬を決めた資料、各月の給与台帳、振込記録、変更理由が分かる資料を揃えます。会社の形態や定款等に応じた決定手続きも確認し、決定内容を議事録などに残してください。

議事録があれば、どのような変更でも税務上認められるわけではありません。また、既に支払った後に、以前からその金額を決めていたような記録を作ることは避けましょう。相談が遅れた場合も、実際の経緯をそのまま伝えることが適切な処理につながります。

税理士への相談は、変更を決める前が適しています

例年どおりの時期に報酬を見直し、社内で必要な資料や手続きを確認できる会社では、自社で準備を進め、税務上の判断を確認する方法もあります。すべての見直しに、同じ範囲の外部支援が必要なわけではありません。

一方、期中に増額・減額したい、業績悪化に当たるか分からない、既に支給額を変えてしまった場合は、早めに税理士へ相談しましょう。変更理由と時期を確認したうえで、損金にできる範囲や申告への影響を検討できます。

相談時には、事業年度、現在の月額、希望する月額、改定予定日、最初に変更額を支払いたい日を伝えます。直近の決算書・試算表、給与台帳、報酬決定時の議事録などがあれば、確認を進めやすくなります。資料が不足しているときは、分かっている事実と未確認の点を分けて伝えてください。

報酬の変更では、法人税だけでなく、役員個人の税負担や社会保険料への影響も含め、会社と個人の双方で負担を考える視点が必要です。手取り額だけ、会社の利益だけといった一つの数字で決めず、必要な確認先や手続きも整理しましょう。

当事務所は、法人の会計・税務に関する日々の相談を取り扱い、その都度、迅速な回答を心がけています。ホームページでは予約制の無料相談をご案内していますので、まずは困っていることと変更の希望時期をお聞かせください。継続的な相談を希望する場合は、支援範囲や費用も併せて確認しましょう。

役員報酬の見直しでは、「いくらにしたいか」に加えて、「いつ、なぜ変えるか」が重要です。報酬を決定したり振込額を変えたりする前に、会社の数字と変更の経緯を整理し、税務上の扱いを確認しておきましょう。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、とちの会計事務所までお問い合わせください。

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