士業コラム
退職予定の社員にも賞与を支払う必要がある?会社の判断と注意点

退職予定の社員にも賞与を支払う必要がある?会社の判断と注意点

賞与の支給日が近づいた時期に、社員から退職の申し出がありました。会社としては、賞与の算定対象期間に働いていたことは認めつつも、支給日前に退職する社員にまで賞与を支払う必要があるのか、判断に迷うことがあります。反対に、社員から「働いた期間の分はもらえるはず」と請求される場合もあるでしょう。

この問題は、退職するという事実だけでは結論が出ません。賞与の支給条件を定めた就業規則や雇用契約、実際の支給慣行、退職理由などを確認する必要があります。中小企業の経営者や人事担当者に向けて、判断の順序と対応上の注意点を整理します。

賞与は退職する社員にも必ず支払うもの?

賞与の支払義務は会社の定めによって変わる

法律は、すべての会社に賞与制度を設けることを義務付けているわけではありません。ただし、就業規則や労働契約などで賞与の支給条件が定められている場合には、その内容に応じて支払義務が生じます。毎年の支給方法が明確な労使慣行になっている場合も、検討が必要です。

まず確認したいのは、賞与が会社の業績や勤務評価によって金額を決める制度なのか、それとも年俸の一部として金額が確定しているものなのかという点です。「賞与」という名称だけで、支払義務の有無が決まるわけではありません。

算定対象期間に勤務しただけで当然に支給されるとは限らない

例えば、賞与の算定対象期間が1月から6月までで、支給日が7月10日と定められている会社を考えます。社員が6月30日に自己都合で退職する場合、算定対象期間の全期間に勤務していても、支給日には在籍していません。

この場合、就業規則などに「賞与は支給日に在籍する社員に支給する」という条件が明確に設けられ、有効に適用できるのであれば、原則として賞与を支給しない取扱いが認められます。ただし、規程がない場合や別の約束がある場合まで、一律に不支給と判断することはできません。

最初に確認したい3つの資料と条件

就業規則・賞与規程の支給日在籍要件

支給日に在籍していることを賞与の条件とする定めは「支給日在籍要件」と呼ばれます。厚生労働省のモデル就業規則でも、一定の日に在籍する社員を支給対象とする規定を設けることが可能と説明されています。

ただし、「賞与は会社の業績に応じて支給する」とだけ記載されている場合は、支給日在籍要件が明確とは限りません。対象期間、基準日、支給日、対象者の定義を分けて読み、今回の社員にどの条項が適用されるのかを確認します。また、その規程が普段から社員に周知(閲覧できる状態に)されていたかもあわせて確認してください。

雇用契約書・採用時の説明内容

就業規則とは別に、雇用契約書で賞与額や支給条件を個別に約束していることがあります。年俸を分割して夏と冬に一定額を支払う契約であれば、一般的な業績連動型賞与とは扱いが異なる可能性があります。採用時の説明資料や労働条件通知書も確認しましょう。

過去の支給実績と運用

規程の文言だけでなく、過去に支給日前に退職した社員へどのように対応していたかも重要です。毎回同じ条件で支給していたのか、例外的に支払ったことがあるのか、その理由を記録から確認します。単発の例外と、継続した労使慣行は区別して考える必要があります。

退職理由や支給日の変更によって判断が変わる場合

自己都合退職と会社都合の退職

本人が退職日を選べる自己都合退職では、明確な支給日在籍要件が有効と判断される例が多くあります。一方、整理解雇など、社員が退職時期を自由に選べない場合には、同じ条件をそのまま適用することが不合理とされる可能性があります。

「退職届があるから自己都合」と形式だけで決めず、会社から退職を求めた経緯や退職日の決定過程も確認してください。会社都合の事情が強い場合は、支給の可否を決める前に個別の法的検討が必要です。

賞与の支給日が予定より遅れた場合

例年の支給予定日には在籍していた社員が、会社の事情によって支給日が延期された後に退職した場合、実際の振込日に在籍していないことだけで不支給とできるとは限りません。規程上の支給日、延期の理由、社員への通知内容を確認する必要があります。

また、退職が決まった社員だけを対象に支給日を変更するなどの対応は、紛争につながりやすいため避けるべきです。

社員から賞与を請求されたときの対応手順

まずは結論を伝えず、資料と日付を整理する

社員から請求を受けたら、その場で「退職者には支払わない」と断言せず、次の事実を整理します。①賞与の算定対象期間、②規程上の支給日と実際の支給予定日、③退職日、④支給条件を定めた文書、⑤退職に至った経緯、⑥過去の同種事例です。退職日の変更を打診している場合は、そのやり取りも残します。

必要な資料がそろえば、支給日在籍要件が存在するか、個別契約が優先して検討されるか、例外的事情があるかという順番で確認できます。

判断根拠を社員に説明し、やり取りを記録する

不支給と判断した場合は、就業規則の該当条項と日付の関係を示し、説明内容を記録します。逆に支給が必要と判断した場合も、金額の算定根拠と支給時期を確認して通知します。感情的な応酬を避け、本人から示された契約書や説明資料に食い違いがないかも確認してください。

判断が分かれる事情がある場合には、支給を拒否する回答を急がず、社会保険労務士などに規程や運用を確認してもらう方法があります。法的紛争が顕在化している場合には弁護士への相談も検討します。

今後のトラブルを防ぐための賞与規程の整備

今回の問題をきっかけに規程を見直すなら、賞与の算定対象期間、支給予定日、支給対象者、在籍基準日、会社業績や人事評価との関係を、互いに矛盾しない表現で整理することが大切です。支給日が変更された場合の取扱いや、退職予定者に関する説明方法も確認しておくとよいでしょう。

ただし、既に社員に認められている支給条件を不利益に変更する場合、会社が一方的に規程を書き換えれば解決するわけではありません。労働条件の変更に関する法的な要件を別途検討する必要があります。新しい規程を過去の退職者に遡って適用することも避けてください。

例えば、賞与支給日の数日前に退職予定者がいると分かった場合でも、規程の修正を先行させるのではなく、まず現行の約束に基づいて判断します。その後、次回以降の運用について社員への周知方法も含めて整備する、という順序が適切です。

判断に迷ったら、現行規程と退職経緯をそろえて相談を

退職予定者への賞与は、「対象期間に働いたから必ず支給」「支給日前に退職するから必ず不支給」のどちらとも言い切れません。支給日在籍要件の有無に加え、個別契約、実際の運用、退職理由、支給日変更の事情を確認して判断することが重要です。

城田社会保険労務士事務所は、東京都豊島区を拠点に中小企業の労務管理や就業規則作成を取り扱っています。賞与の支給条件について判断に迷う場合は、就業規則・賞与規程、雇用契約書、過去の支給記録、退職日と支給日が分かる資料を用意し、相談することをご検討ください。

本記事は、公開日時点の法令・制度および関連情報に基づいて作成しています。
法令改正等により内容が変更される場合があります。
個別にご相談につきましては、城田社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

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