歩んできた道、仕事への情熱、依頼者への想いを紐解く

耳の痛い話こそ依頼者を守る。
“三方よし”の精神を貫く
税理士の轍
- 税理士

歴史研究者を志した学生時代を経て、思いがけず踏み出した税理士への道。スリーアローズ税理士事務所の三矢清史さんは、数字を扱う仕事の先に、依頼者の人生や家族の未来があると語ります。
目先の節税だけにとらわれず、時には耳の痛い話も伝えながら、長い目で見た最適解を探す。その姿勢には、近江商人の「三方よし」の精神と、依頼者を後悔させたくないという強い思いがありました。
三矢さんが歩んできた“轍”と、これから描く未来に迫ります。

思い描いた進路ではなかった。
だからこそ、税理士という仕事の面白さに気づけた。
もともとは歴史の研究者を志していたそうですね。
学生時代は歴史が好きで、学者という道に憧れを抱いていた時期もありました。ただ、受験が思うようにいかなかったこともあり、親戚の勧めをきっかけに税理士を目指せる専門学校へ進みました。
正直に言えば、最初から強い志を持って税理士を目指したわけではありません。勧められて専門学校に進み、そこから少しずつこの仕事に向き合うようになりました。
ただ、一度つまずいた経験があったからこそ、勉強に向き合うことの大切さは身にしみました。専門学校に入ってからは、税理士の勉強だけでなく、販売士検定やシステムアドミニストレーター、パソコン関係の資格など、当時は取れる資格を片っ端から受けていました。
税理士の勉強を始めて、面白さを感じた部分はありましたか。
簿記や税法の勉強が「歴史研究」に通じる面があると気づいたんです。
歴史も、物事を分析して考える学問ですよね。断片的な事実をつなぎ合わせて真実を浮かび上がらせる歴史学と、条文と事実を照らし合わせて最適解を導き出す税法は、まさに共通の面白さがありました。
もともと進みたかった道とは違いましたが、学んでいくうちに「これは自分に合っているのではないか」と感じるようになりました。
実務に入ってから、税理士という仕事に対するイメージはどのように変わりましたか。
この仕事は、単に数字を処理するだけではないと感じるようになりました。
最初に担当していた法人の申告業務では、毎年同じお客様と向き合います。だからこそ、「今年の申告を終えて終わり」ではなく、次の年に向けて必ず何か一つ改善しようと考えていました。
たとえば、経理の流れを見直して負担を軽くすることもありますし、税金の面でよりよい方法を提案することもあります。税理士の仕事は、数字を処理するだけではなく、お客様の状況を見ながら、よりよい選択肢を一緒に考える仕事でもあると感じました。
提案したことが数字に表れ、お客様にも喜んでもらえる。数字の面でも、感情の面でも貢献できるところが、この仕事の醍醐味だと思っています。だから、人生をやり直しても、またこの業界を選びたいですね。

目先の節税だけでは守れないものがある。“三方よし”の精神で、長い目の最適解を探す。
税理士として実務経験を積んだあと、なぜ独立という道を選んだのでしょうか。
前の職場には約14年勤めていました。居心地も良く、いろいろ任せてもらえていたので、恵まれた環境だったと思います。
一番若手として入った事務所で経験を積み、辞める頃にはある程度の立場も任されるようになっていました。ただ、税理士資格を取ったタイミングで、もう一段階ステップアップしたいという気持ちが強くなったんです。
前の職場に不満があったというより、自分の力で外に出てみたいという思いがありました。外に出れば、自分自身が認めてもらえなければ仕事にはなりません。その厳しさも含めて、自分でやってみたいと思ったことが独立の大きなきっかけです。
事務所名の「スリーアローズ」には、どのような意味を込めたのでしょうか。
自分の中では、お客様、事務所、そして提携先の専門家や事業者。この三者がうまくいく形をつくりたいという思いを込めました。
滋賀県出身ということもあり、近江商人の「三方よし」の考え方を意識しています。お客様だけが得をするのでも、事務所だけが得をするのでも、提携先だけが得をするのでも、長くは続きません。
たとえば、お客様にとって本当に良くない提案であれば、たとえ事務所や提携先に利益があったとしても勧めるべきではありません。反対に、お客様だけが一方的に得をしようとする関係でも、健全な仕事にはならないと思っています。
誰か一人が勝つのではなく、関わる人それぞれにとって納得できる形を探すこと。それが、スリーアローズという名前に込めた考え方であり、仕事をするうえで大切にしている姿勢です。
そうした考え方は、お客様との向き合い方にも表れているのでしょうか。
そうですね。税理士という仕事は、上から教える仕事ではなく、お客様がうまくいくために一緒に考える仕事だと思っています。だから、私はあまり「先生」と呼ばれたいとは思っていません。
税理士は、お客様がうまくいった結果として仕事をいただく立場です。だから、自分たちの利益を最初に考えるのではなく、まずお客様に失敗してほしくない。その思いが一番にあります。
「お客様に失敗してほしくない」という思いは、実際の提案ではどのように表れるのでしょうか。
長い目で見て、お客様が損をしない提案をすることです。
税金を下げること自体は、もちろん大切です。ただ、目先の税金だけを下げても、トータルで見たときにお客様が損をしてしまったら意味がありません。だから私は、その場の税額だけではなく、将来の売却や資産全体への影響まで含めて考えるようにしています。
たとえば、相続税を下げるために1億円のマンションを購入し、1,000万円の節税につながったとします。一見すると、有効な相続対策に見えるかもしれません。
でも、相続後にその物件を売却したとき、8,000万円でしか売れなければ、売却では2,000万円の損が出ます。相続税は1,000万円下がっていても、売却で2,000万円損をしてしまえば、トータルではやらない方がよかったということになります。
つまり、税金を下げるという目的は同じでも、目先の節税だけを見ていては、本当に良い提案かどうかは判断できません。税務上は正しくても、お客様を損させてしまったら意味がない。資産全体、将来の出口、家族の状況、リスクまで含めて、長い目で見たときに本当にプラスになるかを考えることが、私の仕事の流儀だと思っています。

「知らなかった」で後悔させない。耳の痛い話まで伝えることが、依頼者を守る。
相続の現場で、「もっと早く関われていれば」と後悔することはありますか。
はい、あります。特に相続の現場では、亡くなった後に相続税の申告だけを依頼されることがあります。
もちろん、申告そのものは大切です。ただ、その段階では、基本的には起きたことを整理して、税額を計算して、手続きを進めるしかありません。実際に計算してみると、「これを生前にやっておけば、もっと違う選択肢があったのに」と感じることがあります。
相続対策は、亡くなってから始めるものではありません。財産の分け方、納税資金、不動産の整理、遺言の準備など、時間をかけて進めるからこそできることがあります。
だからこそ、何かが起きてからではなく、起きる前に知ってもらうことが大切だと思っています。そうした思いから、セミナーやYouTubeなどを通じて情報発信も行っています。
なぜ、情報発信が必要だと感じているのでしょうか。
知らないまま判断して、失敗してしまう人がいるからです。
相続や不動産、節税の情報は、本やWebにもたくさんあります。ただ、人はどうしても自分に都合のいい部分だけを見てしまいます。たとえば、本の一部に線を引いて「これはできますよね」と相談に来られる方もいますが、よく見ると次のページにリスクが書かれていることがある。その大事な部分を読み飛ばしてしまっていることがあるんです。
税金が下がる、得をする、うまくいく。そういう情報だけを見て判断すると、後で大きな損につながることがあります。だから、良い話だけでなく、その裏にあるリスクや注意点まで伝える必要があると思っています。
セミナーでは、どのようなことを意識して伝えているのでしょうか。
耳の痛い話をきちんと伝えることです。
セミナーでは、聞いていて楽しい話ばかりをするわけではありません。むしろ、怖い話や失敗例もあえて伝えるようにしています。知りたくなかったような現実を知ることで、「これは気をつけなければいけない」と感じてもらえることがあるからです。
Webの記事や動画は、自分が見たい情報だけを選んで見ることができます。でも、セミナーでは一定の時間、こちらの話をきちんと聞いてもらえます。その時間の中で、メリットだけでなくリスクまで伝えることに価値があると思っています。
実際に、参加者の方から「リスクも知れてよかった」「リアルな話を聞けてよかった」と言っていただくこともあります。耳当たりのいい話だけではなく、判断に必要な情報をきちんと届けることが、専門家としての役割だと思っています。
耳の痛い話をすることで、離れてしまう相談者もいるのではないでしょうか。
もちろん、いい話だけを聞きたい方もいると思います。ただ、リスクを伝えたうえで離れていく方がいるなら、それはそれで仕方がないと思っています。
むしろ、そこで事務所の考え方を知ってもらえることに意味があります。リスクを伝えずに仕事を受けて、後でお客様を損させてしまう方が問題です。
怖がらせたいわけではありません。知ったうえで選んでほしいんです。リスクを知ったうえで、それでもやるのか、やらないのかを判断してもらう。そのために、いいことばかりではなく、必要であれば耳の痛い話も伝える。それが、依頼者を守るために自分が果たすべき役割だと思っています。

税理士を目指す若手に、学びと実務がつながる場所を。
これから先、税理士としてどのようなことに取り組んでいきたいですか。
将来的には、税理士を目指す若手が、勉強と実務を両立できる場所をつくってみたいと考えています。
税理士の仕事は、数字として成果が見えるだけでなく、お客様から直接感謝していただける仕事です。提案したことが数字に表れ、それによってお客様にも喜んでいただける。そういう面白さを、自分自身も実務の中で感じてきました。
だからこそ、これから税理士を目指す若い人にも、この仕事の面白さを知ってもらえる機会をつくりたいと思っています。
構想されている「税理士を目指す学生向けの住まい」とは、どのような場所なのでしょうか。
税理士を目指す学生が、住みながら勉強できる場所です。ただ住むだけではなく、そこに税理士である自分が関わることで、単なる住まい以上の価値を持たせられるのではないかと考えています。
自分自身も不動産投資をしていますが、ただ賃貸収入を得るだけではなく、業界に役立つ形にできないかと思うようになりました。たとえば、自分の物件を寮のような形にして、税理士を目指す学生が住みながら勉強できる場所にする。そこに、独立している税理士が勉強会を開いたり、会計事務所の繁忙期に実務を手伝ってもらったりする機会をつくることもできると思います。
学生にとっては、試験勉強だけでなく実務を知る機会になります。事務所にとっては、見込みのある若手と出会える可能性があります。オーナーとしても、物件を活用できます。
学生が学び、事務所が人材と出会い、業界にも実務に触れた若手が増えていく。ここにも、三方よしの考え方があります。そういう場所を通じて、次の世代に税理士の仕事の面白さを伝えていけたらと思っています。
最後に、三矢さんがこれから歩んでいきたい道(轍)を教えてください。
税理士は数字の仕事だと思われがちですが、実際には人と向き合う仕事です。
AIなどによって、仕事のあり方はこれからも変わっていくと思います。数字を整理するだけであれば、変化の影響を受ける部分もあるでしょう。ただ、お客様と話し、状況を理解し、不安やリスクを整理したうえで提案することには、これからも価値があると思っています。
変化のスピードが速い時代だからこそ、専門家として新しいものも取り入れながら、自分たちの価値を見つけて提供していく必要があります。いいことばかりを伝えるのではなく、必要であれば耳の痛い話もきちんと伝える。お客様が納得して判断できるように支える。
そして何より、仕事は楽しくやらないと損だと思っています。明るく前向きに仕事に向き合うことが、お客様にとっての安心にもつながるはずです。これからも、税理士という仕事の面白さを自分自身が体現しながら、次の世代にも伝えていきたいですね。
三矢 清史プロフィール
スリーアローズ税理士事務所代表税理士、CCIM(CCIM認定不動産投資顧問資格)、CPMⓇ(IREM認定不動産経営管理士)。1978年5月生まれ、滋賀県高島市出身。2002年に妹尾公認会計士事務所、現ひょうご税理士法人に入社し、法人税務や資産税、不動産オーナー向けの税務支援など実務経験を積む。2015年2月に税理士登録、同年9月にスリーアローズ税理士事務所を開業した。
セミナー・勉強会講師としても活動し、日本経済新聞社、全国賃貸住宅新聞社、金融機関、不動産関連企業などで講演実績を持つ。座右の銘は「成功したければ、踏み均された道を選ぶな」。
事務所概要
編集後記
三矢さんの取材で印象的だったのは、「お客様を損させたくない」という思いが、すべての言葉の根底にあったことです。
税理士という仕事は、数字を扱う仕事です。しかし、その数字の先には、事業や資産、家族の将来があります。目先の税金を下げることだけを目的にせず、数年後、数十年後まで見据えて「本当にその人のためになる選択」を考える。その姿勢に、三矢さんらしさが表れていました。
耳の痛い話を伝えるのも、不安をあおるためではありません。リスクを知ったうえで、自分に合った判断をしてほしいからこそ、あえて言いにくいことも伝える。そこに、相談者と対等に向き合うパートナーとしての誠実さを感じました。
第1回「士業の轍」にふさわしい、仕事の哲学と人柄が伝わる取材となりました。
このインタビュー記事は、2026年5月11日に実施した取材に基づき作成したものです。掲載内容は取材時点の情報であり、現在の状況と異なる場合があります。記事の作成にあたっては正確性に配慮しておりますが、その内容の完全性および最新性を保証するものではありません。